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硝子のナイフ

                       キトウ
 

芽立ちにパッと息が笑う
ポカポカ歩くポカポカ歩く
夏は盆の薄篝かがり
線香の濃ゆい香りと高矢倉
秋はゾッと鋭い
意地っ張りの衣替えは窮屈
大晦日の駅
夜の天上は肌身に熔ける雪
 
(そなた私になにをお求めか? ストーカーを飼ってるわけでもあるまいに…)
 
ふいに顕れてボクを誘う
(しょっちゅうはこわいね)
ボクはよわい者だから何度も何度もチラ見する
(あの頃だ)
まるでかがやきもないただの石ころめ!
硝子一枚割るしか能のない奴め!
(そなたなにをお求めか?)
 
あの頃がボクにつきまとうのは
あの頃がボクの耳へ息吹くのは
あの頃がボクを忘れないのは
 
(しつっこいね。…めめしいな。泣くなよ)
 
あの頃がボクに殺意を抱くのは
あの頃がボクに寄り添うのは
あの頃がボクの眠りに添い寝するのは
 
(さりとて)
 
あの頃がボクを𠮟るのは
あの頃がボクを励ますのは
あの頃がボクの今も遠くも眺めているのは
 
(そなたなにをお求めか?)
(そなたなにをお求めか?)
(そなたなにをお求めか?)
 
あの頃がボクを睨むのは
あの頃がボクの足元につばを吐くのは
硝子のナイフでいっしょに逝こうと誘うのは
 
それは
それは
それは
 
硬質ガラスの窓越しに
春夏秋冬を診たからだ
雪を診る
あの頃が透き通る眠るような思い出で
無垢がボクの脳を喰いやぶる

(了)

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