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Christmas tina -泡沫冬景- 読了

ーーー1988年12月。
クリスマスを前にした、12月の雪の降る夜。
とある16才の女の子が泣いた。
田舎から上京し、高校を中退し、可愛い服に憧れ、いい姉を目指し、
自らの心を殺すことを決めて泣いた。
                           Chapter29:涙跡

演出◎
コスパ◎
キャラ◯
世界観(雰囲気)◯
シナリオ△

定休と発熱お断りの病院しかなく自分がインフルB型にかかったのかノロにかかったのかわからないまま体調が上向き始めました、オットセイです。
まっことお久しぶりビジュアルノベルレビゥのお時間でございます。
最後に読了したのはレイラインですから、2か月以上ぶりでしょうか。

そんな僕が新年一発目にプレイした冬ゲーは〜〜〜〜〜
デン!泡沫冬景!
携帯版をリリース当日に買って、クリスマスに合わせて実家でプレーしようと思ったのですが時間がなく結局年明けになってしまいました。
こちらの作品は日中共同開発で中国で先に販売されています。逆輸入ってヤツですね。
中国だと売上40万本を超えているんだとか。それだけのヒット作にもかかわらず日本で話題になってなさすぎる...

シナリオはねこねこソフトで多くの作品を手がけたり、ナルキッソスで有名な片岡とも先生。
ナルキッソスこそ興味はありましたが同氏の作品をプレイするのは初めてでした。
そして、プレイしてもっと興味を持ちました。
プロットを抜きに考えても、丁寧かつ直感的でありながらレパートリーに富んだ情景描写、長ったるしくなくテンポの良い文章など読みやすく好感の持てるシナリオでしたので。

キャラデザと原画はWerkbauさんという中国の方。
これがイイ。ありえんイイ。
特に髪と目の塗りですかね。
ビジュアル的な部分こそ好みになってしまうのですが、やはり僕は中国絵師のテイストがことごとく刺さるんだなぁと思わされました。

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中国絵師が和服の女の子のCGを描く...まさに日中共同開発ならではですねえ。


さて、読み飛ばされてしまう前にこの作品の良さを伝えたいのでお先に総評を置いておきます。
このゲーム、買いです。
具体的に言いますと、
天気の子が好きな新参オタク
家族計画が好きな古参オタク
この二種類は間違いなく買いです。
どちらにもかなり近いものがあります。
というか足して2で割ったと言う方が近いかもしれませんが。素晴らしいシナリオ、素晴らしいグラフィック、素晴らしい音楽と全部良いのですが、特筆する点は二つあります。
一つ目、最高クラスの演出。
Live2Dとかそういうのを入れないビジュアルノベルでできる演出を全部やったんじゃないかってくらいの出来です。
このゲーム、立ち絵がなくて基本背景とCGなんですね。しかもかなり動くし。
その上文章が出てくる場所も大きさも出る際の表現もさまざまで。
美麗な背景を眺めながら物語を読むのは没入感が凄いです。
視覚情報のことなのでうまく言葉にできずもどかしいのですがとにかく演出が良いんです。
ビジュアルノベルだからこそできることを、2021年に相応しい技術できちんとやってきてくれています。

二つ目、価格です。
おいおい金の話かよと思うかもしれませんがとにかく安いんですよ。

Steamだと3000ちょい(セール時は60%オフみたいです)

僕の買ったiOS版は1000円を切り。

android版は520円とな...安すぎる。

もちろん、元がロープライスの作品ですからボリュームはかなり少ないです。
大体プレイ時間10時間前後ですかね、僕は9時間で終わりました。
でもこの短さはシナリオのテンポの良さでもあります。
終盤だけ引っかかるところがありましたが(ネタバレ有りで後述します)そこを抜きにすれば、アンストレスでテンポ良く短い時間で読み進められるかつ登場人物の掘り下げや人間関係の変化も見ることができる素晴らしい内容でした。
短いながらクオリティが高いんです。
※元の中国版から翻訳したせいか誤字(特に送り仮名)が少し目立ちました。すぐ修正されると思いますが書いておきます。

で、この値段。
書いでしょう!どうして質も高いし安いし携帯でもプレイできる作品がここまで話題にならないのかがわかりません。
やはり日本内でのビジュアルノベルの旗は完全に折られてしまっている状態なのでしょうか?少し悲しくなりました。


それでは内容に入っていきましょう。
舞台は1987-88年の東京。
またバブルという名前もついていなかった昭和最後の年のお話です。
妹の手術代を稼ぐために高校を中退して上京してきた女の子栞奈と、それについてきた妹の絵美。
大学受験に失敗し、やり直すためのお金を稼ぎにきた中国人の青年景。
この3人が地上げのバイトで同じ駅舎で共同生活をするお話です。
それに加えて栞奈にバイトを紹介してくれた佐倉さんと、その会社の社長で来日中国人に仕事の斡旋をする江。
主要人物はたったこの5人だけです。
基本はこの5人だけで物語が進んでいきます。
これだけ登場人物を絞ったことが、少ないボリュームで掘り下げをしっかり行い、濃密な人間関係を表現できたことに繋がってるわけですね。
僕がしょっちゅう言ってる神1クールオリアニの鉄則と同じです。

なんかどっかで見た情報だと伝奇モノ!って書いてあったのでてっきりそういうヤツだと思っていたのですが全くもって違いました。
ゴリゴリのリアルテイストの温かい人情物語です。ヒューマンドラマです。
伝奇モノあんましだからちょっと後回しにしてたじゃん、嘘つき出てこ〜〜〜い。

また、わざわざこの時代設定にしたということもありバブル期の日本という舞台装置も上手く活かされています。
しかし、バブル期といってもその華やかさではなく、絶頂期の灯火に生まれる影にフォーカスされている感じ。
どどのつまりアングラ要素もあるよってことですね。
不正入国とか風俗とかそんな感じ。
つってもそんなガッツリじゃないですよ、アングラ好きの僕はワクワクしてましたけど。

短いお話なので触れるところほとんどがネタバレになってしまうことに気がつきました。
てことで以下ネタバレ注意で詳しい感想をお届けします。














キャラの良さは物語の良さ。
何が良いってまずキャラが良いです。
みんな年相応というか身の丈にあった人間味のあるキャラばかりなんですよね。ある一名を除いて。

まず主人公その1が栞奈ちゃん。
1番等身大のキャラだったと思います。
真面目で、我慢強くて、なんでも抱え込む長女らしくて。
それに加え、優柔不断さだったり、世間知らずだったり、子供っぽいところには、人によっては不快感を覚えるくらいだったかもしれません。
でも僕はそういうところが好きです。何億回でも言いますが僕は欠点を持った年相応のリアリティのある人間臭いキャラクターが大好きなんです。

次に主人公がその2景。
こいつはとにかくいいヤツ。
同じ優男でも目隠れのよくわかんないエロゲ主人公と、中国から覚悟を決めて出稼ぎに来た主人公とでは見え方も大違いです。
しかも全然ただの優男じゃないですしね。
芯があって、言い換えれば頑固なところがあって、正義感が強くて、景も景で世間知らずで。
それでも人の事を想って成長する、変われる、そんな主人公。応援したくなります。

絵美ちゃんはきちんと子供っぽくありながら、自分のために家族が必死にお金を稼いでいる事を悟っていて子供ながら責任を感じているところにグッときますし。
江も全てを割り切って際どいビジネスに振り切ったつもりでいても、どこか人情味を捨てきれていなかったり。

でも佐倉さんあんたはダメだ。
大学生で、でも不動産屋一人で切り盛りしてて、めっちゃオシャレで、何かとアクティブで、原宿の人間ほとんどに顔が効いて...
一応回想でちょっと弱ったところ見せられても超人が過ぎます。
どんなスーパーウーメン?何物あんた?

でもそんな佐倉さんがいっちゃん好き。

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大人っぽくて。

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頼りになって。

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お酒が弱いのに(ここ重要)お酒が好きで。
こういう有能酒好きお姉さんキャラみたいなのほんま好きなんすよ。
それでサイドアップテールのこのビジュアルでしょ。刺さらないわけがありませんて。
しかもゴトゥーザ様の演技めちゃくちゃ良いし。
最高です。こういうお姉さんに一生家臣としてついていきたい。
え、21歳?
僕と同い年?

.......................

ちょっと死んできますね。



ここからはシナリオの印象に残った点を。
まずはこの作品の片方の目玉でありコンセプトでもあるであろう言葉の壁、ここについて触れないわけにはいけません。
田舎女と中国男の共同生活を隔たる最大の壁、言語。
栞奈も内気でありながらコミュニケーションを取る努力をするし、景もお金にはドライでありながら真摯な対応を取ろうとします。
それでも言語の壁は高く、すれ違い続けてしまいます。かなり長い間。

特に絵美ちゃんが来るまではもう見てられないほどでした。
最初こそえ、妹来るの早くね?と思いましたが、言葉が通じずギクシャクする2人を見続けるとなると考えられなかったかもしれません。
特に、2人の時に栞奈が渡せなかったお弁当、景が渡せなかった毛布を、絵美という存在を通してあっさり渡せてしまったのがいかに潤滑油としての役割を果たしていたのかを物語っています。

その後は苦しみつつも少しずつ少しずつコミュニケーションが取れるようになり、それに伴って仲も良くなっていくわけですが。
当初のギクシャク感、そして互いの言語を知らない上でコミュニケーションが円滑になるまでの長い時間などはリアリティがあるなぁと思いました。
あとはじめに意思疎通が取れたのが日本語でも中国語でもなく簡単な英語っていうのもなかなか。

その言語のすれ違いでも特に印象に残っている対比のシーンがあります。
それは序盤の栞奈と、Chapter21の栞奈の対比です。
序盤、上手く意思疎通が取れずにギクシャクしている時。
普段我慢強くなんでも溜め込んでしまう栞奈が、よく小言を口に出して溢すようになります。
それは景が日本語を理解できないからです。吐き出しても誰も傷つかないなら溜め込んでおく必要がないので、それをいいことに景の眼の前で愚痴を吐く。

そこから絵美が来て、和解して、互いの事情を知って、オープンカフェを始めて。
親交を深めた後のChapter21。
成金のパーティーに勇気を出して参加をしたものの、ついていけず完全にいつも通り周りに合わせて心労しきっていた栞奈を景が自転車で迎えに来るシーン。
個人的に一番好きな章です。
バブル期という舞台で、明るくも冷たい華やかさを是とする周りに対し、影の中に潜む小さな幸せを選ぶわけですから。

ボロボロの自転車でパーティー会場に来た謎の中国人を、周りの成金は散々言いたい放題吐き散らかして笑い、蔑みます。
そこでやっと、縮こまっていた栞奈が成金に大声で吐き捨て、ハイヒールを投げ、2人乗りで夜の東京を走る...
そのロマンチックな展開もそうですが、普段何もかも我慢して鬱屈としている栞奈が妹以外のことであれほど感情を爆発させるなんて、印象に残らないはずがありません。
この時栞奈は、周りが何と言うことよりも一瞬周りに合わせて景の他人を装い、ぎこちない笑いを作ってしまった自分への怒りだと語っていますが。
その自分への怒りの中には、どれだけ悪口を吐かれようが真っ直ぐな目で栞奈を心配する景の姿を見て、自分は今これと同じような事をしていた事を自覚されたということも含まれていると想像せざるを得ませんでした。

これは言語のすれ違い描写に限った話ではなくこの作品のシナリオを通してなのですが、主人公2人の言動全てが納得できるというか、腑に落ちるのが本当にいいところだと思うんですよね。
栞奈と景はプロローグでどんな人物なのかを知った上で物語が始まり、自分が栞奈の立場で栞奈の性格ならこうするな、自分が景の立場で景の性格ならこうするな、考える事全てが全部綺麗にハマって腑に落ちるのが、気持ちいいというか落ち着く。
プロローグに加え、序盤は人数も少なく会話が少なかったためその分内面描写が多かったり、僕自身が彼らと同じ未成熟で世間知らずな青年と少女という所が重なって感情移入と思考が重なったのかもしれません。


次にも避けられないのは
江、伊織、詩織一家と栞奈達の対比。
もうあまりに露骨なレベルで重ねにきてますよね。
中国人の出稼ぎ男、子連れの女とその娘、3人の共同生活。
中国男の出稼ぎ男、妹連れの女とその妹、3人の共同生活。
まんま、もうちょい違うとこあってもよかったんとちゃうかと想えるくらいまんまです。
景と栞奈と絵美の関係はもう秋には家族そのものでしたからね。
ん?なんかこの対比見たことあるぞ。
東京に出てきた青年が一回り上の男性にお世話になって、その青年に近い運命を辿って妻を失い、一人娘がいて...
って天気の子やないかーーーーーーーーーい。
冷静に整理してみたら想像以上に天気の子でした。

でも問題はその先の選択なんですよ。そこが天気の子とは違う。
天気の子であれば、帆高は圭介とは違う選択を取り、圭介が悩みながらもそれを止めに行く展開でした。
しかし、こちらではどちらの男も初めは金にならない安全な仕事を選んで、最後には家族のために危険で金になる仕事を選んだ、同じなんです。
それで家族を失い幸せを取り逃がしてしまったのが江。
でも、同じ選択をした景はそうはならなかった。そうならない選択を江が提示したからです。
人ではどうにもならないセカイ系である天気の子とは違って、ティナは等身大の膨れて弾ける前の東京。
同郷のよしみ、同じ環境の3人への同情、自分が失ってしまった目の前の幸せ、色々な理由があるでしょう。
江が最後に主人公たちをハッピーエンドへと向かわせる。
この登場人物が少なく東京でありながら閉鎖的に育まれた物語の結末として、綺麗なんじゃないかなと思いましたね。


はい最後。最後に最後の話をします。
ほんとにねーーーーーーここだけねーーーーーーーもったいない。届かない。足りない。
誤字脱字を抜いて唯一の不満点です。
終盤の展開自体は全然いいんです。
ベタで王道、割と誰もが予想できる展開。
それでも全然よかった。3人たまにくる明るいお姉さんの関係が維持されて、手術もして、誰も不幸にならないハッピーエンドだけをただ待っていましたから。
エピローグの最後だってとっても素敵です。
言葉の壁が大きなコンセプトとしてある中、一度も祝われなかった景の誕生日を、クリスマスを、最後にやっと相手の言葉で祝う。
感動しますよ。おしゃれだし。最初から読んでれば思うところがないはずがありません。

ただ!ただね!
終盤のシナリオの厚みがなーーーーーーーーーーーーい。
テンポが良過ぎました。
いや、テンポを下げることができなかったという方が正しいでしょうか。
最後以外のテンポの良さはプラス要素でしかなかったんです。
実際短い時間ながらも無駄な描写と文章が一切なく、本質的な掘り下げや退屈しないイベントばかりだったので、プレイ時間に対して世界観への没入度とキャラへの愛着と感情移入は普通じゃ考えられないほどでした。

でも最後はさ、最後は違うやん...
丸1年間過ごしてきて、いろいろあって一緒に乗り越えてのクライマックスなんよ...?
間違いなく描写不足だったと思います。
心理描写が足りない。
景が苦悩するシーンが足りない。
一年のシーンをもっとしっかり回想したってよかったと思います。
物語の終わりにかけてボルテージを上げることも、迎える準備をすることもなく、同速のテンポで終わりが来てしまったという感覚です。

足りない。足りません。物足りない。
もっとしっかりとこの5人の行く末とそこに至る前の過程を見守りたかった、それに尽きます。
でもこれも、ロープラとしての作り方とは当然のことで当たり前なのかもしれませんね。
これがただのロープラ短時間ノベルならこうはなってませんでした。
短いプレイ時間に対する掘り下げが良すぎるあまりこうなってしまったのかもしれませんね。



以上感想でした。
長年コンテンツ離れをしていたせいか、今手に取っているのは本当に見たいもの・やりたいものなので質が高くて良いですねぇ。テカテカしてます。
あと、やっぱり僕は恋愛よりも家族愛の方がよっぽど刺さるんだなって事を再認識しました。
この作品に関しては全然くっついていいだろと思ってましたけどね。
むしろくっついてほしかったお似合いだしいいヤツ同士なので。
あのあとくっつくのも安易に想像できますしね。
それでもなお、恋ではなかったという形に収めるのもまた一興です。
僕が恋愛<家族愛なの、恋愛感情に至るまでのプロセスに違和感を感じるとすぐ?となってしまうせいだと思っていたのですが、冷静に考えたらまともな恋愛経験がないからただ共感できてないだけなんでしょうね...トホホ。

こちらの作品、現在Steam版でDLCが出ているのですが残念ながら現在日本語未対応とな。
しかしィ!
CGを見たり音楽を聞いたりできるギャラリーモードがですねぇ...
CGの欄のページ数が13ページもあるのに対して4ページも埋まってないんですよォ!
これってェ!DLCもちゃんと和訳されてiOSでも出るって事ですよねェ!
なんならDLCひとつじゃ到底埋まらない量なんでモリモリ分割商法の如く出してくれるって事ですよねェ!!!

ガチで待ってます。余裕で買います。言い値で買います。
圧倒的な演出の作品をもっとプレーしたいというのもひとつですが、僕はもうこの作品のキャラ達の虜になってしまいました。
景と栞奈のその後、過去、if、同じ舞台の別の場所、別の物語、何でも読みたいです。
でも佐倉さんはどれでも出してほしいな...(小声)

オットセイに課金してもガチャは回せません。