ワクチンの効き具合を統計から考える


はじめに

ここでは、Worldometer の Coronavirus Update で過去に上位10カ国に名前を連ねたことのある91ヶ国について、ワクチン接種後の感染者数の増減を調べている。4月28日時点で、世界189国でワクチンの接種が始まっている。ここにあげた91カ国のうち、リビア、タジキスタンを除く89カ国でワクチン接種が実施されている。タジキスタンは 1月13日以降感染者は0であるので、ワクチンは不要と考えたのかもしれない。しかし、トンガやジャージー島など感染数が0の国でもワクチンを接種種ている国はある。


注文されたが接種されていないワクチンがある。

日経の「チャートで見るコロナワクチン」(https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/coronavirus-vaccine-status/)によれば、アストラゼネカ、ジョンソン、モデルナ、サノフィ、ファイザー、シノバック、コバックス、スプートニク、ノババックス、キュアバック、メディカゴ、バーラトのワクチンが契約されている。このうちコバックスは途上国にワクチンを供給する機関で、アストラゼネカのワクチンを扱っている。

しかし、GitHubによれば、これらのワクチンのうち、サノフィ、ノババックス、キュアバック、メディカゴは4月28日の時点での使用実績はまだない。未だ治験中であるという報道がある。サノフィはアストラゼネカ、ジョンソン、モデルナに次いで世界で4番目に多く契約されている。ロイターによれば、サノフィは自社製のワクチンが準備できず(https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-sanofi-vaccines-idJPKBN2AF0F0)ファイザーのワクチンを2021年夏から製造する(https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-vaccines-sanofi-idJPKBN29V2CQ)とあるので、サノフィの契約分はファイザー製ワクチンである可能性がある。

また、日経のリストに上がっていないが、シノファーム、カンシノの中国製ワクチン、ロシア製のエピバックも使用されているので、合計10種類のワクチンが現在接種されている(シノファームには武漢製と北京製の二つがあり、GitHubでは区別をしているが、ここでは同じものとして扱う)。


ワクチンの効き目を測定する2つの指標

新型コロナの感染の勢いが弱くなったかどうかは、ワクチン接種が始まった週から各国で「感染速度」がどのくらい減少したか、と「感染速度」が減少する期間がどのくらい続いているかで判断できる。感染速度とはその日の前1週間の1日平均の新規感染者数のことである。感染速度が高ければ、感染の勢いが強いということである。ワクチンの効果の比較をするには、国同士の感染速度の比較が必要になるが、感染速度は人口の多い国では必然的に大きくなるので、直接比較はできない。そこで、ワクチン接種を開始した週の感染速度を100とした時の、ある週の感染速度の値をその週の「感染係数」として計算する。感染係数が100未満ならば、感染の勢いが弱まったことを示す。

感染係数が低くてもそれが続いていたのでは、いつまで経っても感染が終息しない。例えば、感染係数が下の表のような国Aを考えてみる。

接種を開始した週の感染係数は100である。この国では接種開始後4週間で係数が20になり、それが4週目以降も維持されている。例えば、接種を開始した週の感染速度が1000人なら、4週目には200人にまで減少したので、感染拡大はひとまず抑えられたいってもよい。しかし、4週目以降も毎日200人づつ新規感染者が出るので、感染が終息したとは言えない。したがって、感染が終息するには、感染速度が減少するだけでなく、減少が続くことも大切である。感染速度が減少を続けていけば、いつかは0になり、感染が終息したと言える。そこで、減少を続けた週の数をもう一つの指標にする。減少が3週続いたら−3、増加が5週続けば+5のように表す。

イギリスが2020年12月13日に世界で最初のワクチン接種の報告をしたので、イギリスのワクチン接種開始は2020年12月10日から16日の週ということになる。また、同日が世界のワクチン接種開始週である。下の図は、ワクチン接種開始の週からの世界の感染係数の週ごとの変化のグラフである。

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接種開始から2週目までは減少していたが、すぐに上昇に転じた。4週目以降は再び減少に転じ9週目まで続いた。9週目の係数は48.7なので、この週の新規感染数は12月16日の週の半分以下になった。ところが、10週目からは再び増加になって、18週目には係数が100を超えた。19週目の4月28日の感染速度は109.2で連続週数は+10である。


ワクチン接種後の感染状況(4月28日)

ここで調べている国のうち、ワクチン接種を本格的に開始してから4月28日で、7週間以上経った81カ国の染係数を計算したところ、以下のようになった。

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( )内の数字が感染係数である。連続週数が+3以上の国には ↑ を、−3以下の国には ↓ をつけた。太字の国は前回(3月31日)の分ではリストされなかった国である。赤字は前回感染係数が100以上であったが、今回100未満になった国を、青字は逆に今回100を超えてしまったところである。

感染係数が100未満の国は少なくなった

感染係数が100未満の国は30カ国で、全体の37%にあたる。前回3月31日は46%だったのでだいぶ少なくなった。今回新たに調査対象となった18ヶ国のうち、ナイジェリア、ガーナ、香港、ベラルーシの4ヶ国が係数100未満であった。ナイジェリアとガーナはアストラゼネカを、香港はシノバックとファイザーを、ベラルーシはスプートニクを使用している。

イスラエルの感染係数が15週連続して減少し4.2となった。これは接種開始時から96%近く新規感染数を減少させたことを意味する。最新の1日の平均感染者数は112人である。イスラエルではファイザーとモデルナを接種している。レバノン、ルーマニア、ノルウェー、フィンランド、イタリアも3週以上連続して減少中である。。レバノンはファイザーのみであるが、他の4ヶ国はファイザー、モデルナ、アストラゼネカを接種している。イタリアは4月にアストラゼネカの接種を停止したとの報道があったが、GitHub を見る限り、接種は継続しているようである。また、4月22日からジョンソンのワクチンの接種を始めた。

アイルランドは前週まで4週連続で感染係数を下げていたが、今週は微増になった。アイルランドは、他のEU諸国同様ファイザー、モデルナ、アストラゼネカの3種を接種している。

イギリスとロシアは先週係数を上げ、今週は下げた。それ以前はそれぞれ、14週、12週連続で係数を下げていた。イギリスはファイザーとアストラゼネカに加え、4月7日からモデルナを接種し始めた。ロシアはスプートニクとエピバックを接種している。

ナイジェリアはアストラゼネカを接種している。接種開始前から感染係数を減少させていた。接種開始も6週間は係数を下げてきた。しかし今週は上昇した。これはそれまでの感染減速の流れを受けて接種開始後しばらくの間係数が減少を続けるがやがて反動のように係数が上昇しだすオランダなどのパターンと似ている。

ボリビアは6週連続(22.9ポイント)、南アフリカは3週連続(21.8ポイント)、アルジェリアは5週連続(37.3ポイント)で感染係数が上昇中である。上昇期間中にポイントが高く上昇している点が懸念される。ボリビアとアルジェリアはスプートニクを接種している。

香港とデンマークは今週は減少したが、それ以前は3週連続で上昇し、それぞれ、43.7ポイント、14.7ポイント上昇させていた。

他の国は係数が上がったり下がったりが数週間位渡り続いている。その中ではポルトガルとメキシコが全体的に見れば減少中であると言える。

感染係数が100以上の国は増えた

感染係数が100以上の国は51カ国で、全体の63%である。今回新たに調査対象となった18ヶ国のうちの14ヶ国で係数100以上であった。ギリシャは12月28日からファイザー、モデルナ、アストラゼネカの3種を接種している。オーストラリア と韓国がファイザーとアストラゼネカを、グアテマラがモデルナとアストラゼネカを接種している

パキスタンは2月2日からカンシノ、シノファーム、スプートニクを接種し始め、4月13日にシノバックを追加した。中国とロシアの両方から提供を受けているのはここだけである。ワクチンをインドから提供してもらうことはできないという意地のようなものが見え隠れする。

中国ロシアの両方からワクチンの提供を受けている国はあまりなく、他にはUAE、メキシコ、アルゼンチン、セルビア、ハンガリー、ボリビア6ヶ国のみであるが、パキスタンと違って、ファイザーやアストラゼネカからも提供を受けている。特に、メキシコとハンガリーは5種類、UAEとセルビアは4種類のワクチンを接種している。

イランとケニアはスプートニクとアストラゼネカを接種している。ベラルーシとあわせ、今回新たにリストに加わった18ヶ国の中で、ロシア製をワクチンを接種しているのはこの3国だけである。全体でも91ヶ国中13ヶ国である。

ウクライナはアストラゼネカ、シノバック、ファイザーを接種している。旧ソ連構成国であるにもかかわらずロシア製のワクチンを使っていない。ウクライナとロシアの関係性が垣間見える。タイ、フィリピンはシノバックとアストラゼネカを、マレーシアはファイザーとシノバックを、イラクとケニアはシノファームとアストラゼネカを接種している。中国製は香港と合わせて、今回新たにリストに加わった18ヶ国の中7ヶ国で使われている。ここでは91ヶ国中21ヶ国で中国製ワクチンが接種されている。

ロシア製も中国製もヨーロッパではハンガリーとセルビアを除いて接種されていない。

アフガニスタンはアストラゼネカを接種している。アストラゼネカは世界の一番多くの国で接種されている。ここの91ヶ国中57ヶ国で接種されている。ファイザーが2番目で
51ヶ国で接種されている。3番目がモデルナの29ヶ国である。


インド周辺国の感染状況がひどくなっている

巷ではインドおよびその周辺国で感染爆発が起きたと騒がれている。4月28日のインドの係数は2470.8と非常に高く、2月24日から10週連続で上昇している。ネパールは前回42.2だった係数が1109.5と1ヶ月で26倍に膨れ上がった。バングラデシュは3種間前に係数が1277.2と過去最高になった。それ以降は減少させ、今は600.3まで下がった。パキスタンは今週は係数が微減したが、先週まで9週連続で係数が増加していた。


インドだけでなく東南アジアもひどくなっている

タイの感染係数はインドの2470.8を大幅に上回る3621.0である。前回は接種開始後7週間未満ということで載せなかったが、3月31日の係数は124.3しかなく、1ヶ月で30倍になった。フィリピンはここ2週間は減少しているが、それまでは9週連続して増加していた。マレーシア、ベトナム、シンガポールは皆前回係数が100未満であったが、100以上になった。インドネシアは上下が繰り返されている。


ワクチンの種類は多い方が良い

下の図の左上のグラフはファイザーのみ、左上はアストラゼネかのみを接種しているところの感染状況グラフである。

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ファイザーはスロバキアで、アストラゼネカはガーナとナイジェリアでは係数が低く効果がありそうだが、それ以外では係数がかなり高くなっており、あまり効き目はないようである。

左中はファイザーとモデルナを接種しているところの状況である。プロットが下の方に集まっているので、感染係数が低いことがわかる。中央寄りなので、減少傾向とは言えないが、増加もしていない。右中はファイザーとアストラゼネカを接種している国の状況である。こちらもプロットはバラバラである。イギリスではとてもよく効いており、スロベニアでもまずまず。しかし他の国では効いていない。

右下はファイザー、モデルナ、アストラゼネカの3種を接種している国で、EUでは最も共通に接種される組み合わせである。ここではプロットが左の方に集まっている、つまり、係数が結構長く減少しているということを意味する。感染係数が100を超えているところも多いが、ひとまず拡大傾向は収まっているとは言える。左下はファイザーにロシア製あるいは中国製を追加した場合である。ばらつきは多いが、グラフの下側と左側にプロットが多い。つまり、接種開始前より係数が低い、あるいは、係数が低くはないが減少が続いている国が多いということである。

ファイザー単独、アストラゼネカ単独あるいはファイザーとアストラゼネカの組み合わせでは効果を発揮するのはごく一部の国だけだが、モデルナを加えるとかなり多くの国で効果を発揮すると思われる。

次の図の左上は中国製あるいはロシア製ワクチンを単独で接種しているところである。

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それぞれ開発国である中国、ロシアとベラルーシ以外ではあまり効いてないといって良さそうである。右上は中国製あるいはロシア製にファイザーを併用しているところ、左下は中国製あるいはロシア製のアストラゼネカを併用しているところ、右下は中国製あるいはロシア製にファイザーおよびアストラゼネカの両方を接種しているところである。単独で使用するよりも、合わせた方が若干係数が低かったり、連続減少週数が伸びたりしている。

ワクチンは複数種類ないと色々な変異株に対応できない

前回までの考察から、ワクチンは特定の株にのみ効果があると考えられる。例えば、アストラゼネカならイギリス変異株にはとても効果があるが、インド変異株には無力であるといった具合である。一つの国で流行している新型コロナウイルスは1種類であるとは限らない。いつの間にか、変種が混じり混んでいたり、新たな変種が生成されたりする。実際ウイルスは変種を作りやすい。

1種類のワクチンでは、こういった変種の抗体を十分に作れない可能性が高い。アルゼンチン大統領がロシア製ワクチンを接種完了していたのもかかわらず、新型コロナに感染したのはまさにこの理由であろう。このような状態でも、ワクチンはある程度の抗体を作るので大統領は軽症で済んだ可能性が高い。もし、若くて体力があれば、発症しなかったかもしれない。

もしワクチンがその国で流行している株に十分効かなかったと仮定する。ワクチンを接種した人たちは、自分はワクチンを接種したからもう感染しないと思い、予防を無視した行動をするだろう。しかし、抗体の生成はするが十分ではないので、感染しても発症しないがウイルスを保持したままである。このような状態でマスクもせずに他人と接触すれば、当然他人に感染する率は高くなる。PCR検査で陰性だからマスクをしないで食事をさせろと店主を脅かした人のように、一部のワクチン接種をした人たちは他人にもマスクをするなと強要するかもしれない。そうなれば、感染する可能性はもっと高くなる。これが、ワクチンを接種していても感染係数が増加する原因の一つであると考えられる。

このような状況を防ぐには、複数のワクチンを接種することが効果的である。二つ目のワクチンがある変種株に効き、3つ目がまた別の変種株に効く可能性があるからである。

現在最も多くの種類を接種している国はメキシコとハンガリーで5種類接種している。あまりに感染が酷いので、いろいろなワクチンを試しているようにも思われる。実際メキシコはワクチンを追加するたびに係数を減らしていく。4月28日の感染係数は34.8と100以下で、減少中ではないものの増加もしていない。ハンガリーは2月末の追加当初は係数が上昇したが、3月末かから5週連続で減少中である。4月28日の感染係数は225とまだまだ高いが、一番ひどい時の3分の1以下になった。

UAE、バーレーン、セルビアは2月半ばから、レバノンは4月初めからワクチンを4種類接種していた。UAEはシノファームとファイザーで接種を始めた時は係数を増加させたが、アストラゼネカとスプートニクを追加してからは、9週連続減少1週の増加を挟んで3週連続減少となっている。今週は微増であるが、4月28日の係数は157で一番ひどい時の半分近くまで落とした。バーレーンはUAEと同じようなスケジュールでワクチンを開始および追加した。追加当時は多少減少したものの、すぐに増加してしまった。セルビアはファイザー、シノファーム、スプートニクで接種始めたものの係数は上昇していた。2月末にアストラゼネカを追加してその1ヶ月後から減少に転じ、4月28日の係数は101で、もう少しで係数も100を切る。レバノンはファイザーのみを使用していた頃は係数を上昇させていたが、アストラゼネカ、スプートニク、シノファームを追加して以降係数が100を切り、4月28日の係数は50.7になった。

EUでは長らくファイザー、モデルナ、アストラゼネカが接種されていたが、4月末から相次いでジョンソンを接種するようにまった。ベルギー、イタリア、チェコ、フランス、ポーランド、アイスランド、スペインが4種接種国になった。これらの国々の係数が今後どう変化していくか興味のあるところである。


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