私は安倍首相に辞めてほしくなかったのかもしれない

とつぜんの安倍首相の辞任表明に、たいそう驚いた。

私は安倍政権が発足してから、ずっと政権に批判的な主張をしてきた。1つひとつの政策に目を向けてみれば、評価できるものとそうでないものと両方ある。しかし、質問に答えず議論を成立させない、憲法をないがしろにする、仲間とばかりつるんで自分に批判的な相手に目を向けようとしない、といったやり方は、総理大臣にふさわしくないと考え、批判してきたつもりだ。

7年半のあいだ、政権が倒れるような問題も1つや2つではなかったと思っている。しかしそれでも責任を取ることをせず、かたくなに辞任しないその姿を見るにつけ、ますます私の感情や主張は激しくなっていった。

ところがどうだろう。いざ辞任を表明されてみると、私は心にぽっかりと穴があいたように感じた。今後の日本の社会はどうなっていくのかと、不安な気持ちに包まれた。あれほど「誰が総理大臣になっても現政権よりはまし」と思っていた私が。

いったい、私は何を批判していたのだろう。決して倒れることのないサンドバッグにひたすらパンチを打ち続け、自分の強さや正しさをアピールしていただけではなかったのか。

私はどちらかといえば「アベノミクス」の恩恵を受け、裕福ではないにしろ、明日に不安を覚えることはない生活ができている。そんな私が、たとえいまが十分ではなくてもこれ以上生活が厳しくなるのは耐えられない、という人たちに寄り添ったような気持ちになって、政権交代を求めることはお門違いではなかったのか。それこそがただの贅沢な遊びではなかったのか。

明らかに下り坂に差し掛かったこの国で、6年間毎年総理大臣が代わり続けたこの国で、大きな大きな犠牲を払いながらも、この国を安定させることに全力を尽くしたのが安倍政権だったのではないだろうか。

安定させるために手段は選ばない、その姿勢を私は批判してきたけれど、そうでない答えはあったのだろうか。

考えに答えは出ていない。しかし、この機会にもういちど新鮮な気持ちで政治を見つめなおすことが、未来につながる何かをつかめるかもしれない。

顔の見えない誰かを敵として攻撃していられるほど、この国に余裕はない。相手を叩き落とすのではなく、一緒に前に進めるように。方法はどうであれ、この7年半を無駄にしてはいけない。この7年半を糧に、私達は未来に進んでいくしかない。だからこそ、検証して、反省して、向き合う。その勇気を持って進もう。