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新人営業マンの成長と教訓

それは、私が新卒で入社して半年足らずの事でした。お得意先の先生から突然声をかけられたのです

「〇〇君、今週の日曜日空いてる?」
 
なんでも、所有する遊休地の雑草が伸び放題で、近所から苦情が来ているらしい。日曜日に草刈りをするので手伝いに来てほしい、というのです

私は喜び勇んで返事しました。「はいっ、行きます!」
 
当時の私の仕事は、病院や調剤薬局等への医薬品営業。非常に競争が激しい業界です。さらに社会的地位の高い医師が相手。信用のない新人が取り入るのは大変な事

はっきり言えば、新人営業マンなんかほとんど相手にされないのです
だから、これは待ちに待った千歳一遇のチャンス

今なら「労務提供」で公正競争規約に抵触するのでしょうが、そこは40年前の古い時代の話。まあ、当時は「なんでもあり」だった訳です
 
前日の土曜日、私は営業所でタバコを吸いながら同僚と雑談していました

「明日、得意先の先生の芝刈り手伝いに行くんだ」
「そうか、頑張れよ!」

その時、会話を聞いていた別の課の先輩が近づいてきました
 
「〇〇、得意先の芝刈り行くのか、お疲れさん。でも商売の話はするなよ」
「え、なんでですか? もう今から色々考えているんですけど…」
「先生の方から話振って来たらいいけど、自分からはだめだ」
 
納得がいきませんでした。折角のチャンスなのに何故…
でも、新人の私は、先輩の助言に従うしかありませんでした
 
そして日曜日。約50坪の土地は荒れ放題。これは想像以上だ
「これじゃあ、近所から苦情も来るわなあ…」
ほぼ丸一日、泥まみれになりながら伸び放題の雑草と格闘
 
その間、話した内容と言えば
先生が熱烈ファンを公言するヤクルトの話ばかり…。阪神ファンの私は同意も反論もできず、ストレスはたまる一方。当然、商売の話をする気配など微塵もなく、悶々としたまま日曜日を終えたのでした


しかし、翌月曜日の事です

いつものようにその得意先に訪問。窓口で注文を訪ねる。普段なら注文を聞いて終わりなのですが、珍しく先生が顔を出します
 
「おー、〇〇君。昨日はありがとう」

先生はそう言って私を手招き。そのまま応接室に通されました。先生との面談は通常診察室で数分なのですが、応接室に通されたのは初めてでした

大きな「赤富士」の絵画が私を出迎えてくれます
 
半年後、当院で3番手だったシェアはあっという間にトップに。その時気づいたのです

あの先輩の助言はこういうことだったのか
 
もし草刈りを手伝いながら私が商売の話をしていたら…。その時は義理で買ってくれたかもしれません。でもそれが続いたかどうか

「薬を売るんじゃなくて自分を売れ」

その先輩がよく使っていた言葉です。あの時の助言と体験がなければ、私は何年も気づかなかったかもしれない。いや、未だに気づいていないかもしれない

こんな当たり前の事を…。仕事の体験を通じて得られる教訓、これに勝るものはないのです
 
そして特筆すべきは、助言を与えてくれた先輩が、別の課の人だったということ。直属の部下でない私が成績を上げても、その人は何も評価されない。何も見返りがない。逆に「余計なお世話」と嫌われるかもしれない
 
それでも、その先輩は当たり前のように助言をくれました。いや、そうした風土ともいうべきものが、少なくともその職場にはありました
 
人が育つ場=職場
 
今思えば、私の原点はここにあるような気がします

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