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魔王を倒すのは姫ですか?それとも執事ですか?4

「王手」
国王が、最後のトドメを勇者に刺した。
「どうじゃ、まだ足掻くかの?」
勇者はもう手詰まりになっており、唇を噛み締めながら、肩を落とした。
「……負けました」
国王は、勇者の肩にぽんと手を置く。
「潔い若者じゃ。これで分かったじゃろ。姫は諦めなさい」
勇者はぐっと歯を食いしばる。そしてキッと国王を見つめる。
「い、一度お会いするだけでも、ダメでしょうか……」
「ダメじゃ」
「わ、分かりました」
言って、勇者は立ち上がる。
「それでは国王陛下、お邪魔いたしました。また、何かあればお呼びつけくださいませ」
「うむ。良い後継者が見つかるよう祈っておるぞい」
「はは、有り難きお言葉。それでは失礼いたします」
ダイは、深々と一礼すると扉を開けて外へ出た。
外にはメイドが立っており、それもまた軽く会釈をすると、メイドとともに、城の外へと誘われた。

城外へ出た勇者は、ポカンと気が抜けた様子であった。
「……さて。どうするか。酒場にでも行って今日は飲むか」
ダイは、とぼとぼと歩きながら街の酒場を目指した。今日はとびっきり上手い酒に会いたいものだ。

その頃、城内ではメイドが洗濯物を出しに行こうとしている最中で、洗濯物干し場でもある庭園には姫と執事、それと狐の眷属が談笑していた。
白いテーブルに積まれたダブダブリュ国で有名な菓子店のお菓子をつまみながら三人は話していた。

「ねえ、デパ。このガレット、美味しいから次はもっと買っておいてくれない?」
「そうですね。こんなに美味しいとは思いませんでしたな」
「ぼくもこれ好きー。でも、これなら紅茶じゃなくてコーヒーの方が良かったかもしれない。もぐもぐ」
「ちょっと!食べ過ぎよチユ!私の無くなっちゃうじゃない」
「えー、姫はもう五つも食べたじゃないですかあ」
「うるさーい、私は姫なんだから多くていいでしょ」
もうひとつまみしようとしているところを、デパがすかさず突っ込む。
「先日、ダイエットすると仰ってましたが」
「うぐ……。う、うるさぁい……」

和気あいあいと談笑している中、メイドが一礼すると、
「姫様、ご機嫌麗しゅう」
「あら、お疲れ様」
「先程、勇者ダイ様がいらしていましたよ」
洗濯物を干しながらしれっと言う。
「え? 勇者が来てた? それにしてもなんで?」
メイドは軽く首を横に振る。
「さあ、王様とお話していましたので、内容は私はわかりませんが」
狐の眷属が言う。
「ぼく、勇者様に会いたかったなあ。狐族のためにも一役かって下さった方ですもん。お礼言いたかったなあ」
執事も、うむうむと頷き、
「そうですね。私たちがこんな食事を出来ているのも、勇者様のお陰ですからね」
姫は、そんなことを言う二人をまじまじと見、
「へえ、なんか面白そうね。ねえ、その勇者もう帰っちゃったの?」
「はい。王様が帰したようです」
姫はがたん、と椅子を鳴らし立ち上がる。
「私、勇者に会いたい! 勇者に会って、結婚を申し込む!」
「はあああああああ!?」
一同、呆気に取られた様子で、口に入れていたガレットを落とす。
「ひ、姫様……。何をそのような迷いごとを……」
執事が、おろおろと姫に手を伸ばす。姫はその手を振り払い、
「だって、デパもチユもそんなに尊敬するような相手なら、結婚したら面白そうだなって思って」
「いや、理由になってませんよ姫様……。そもそも結婚とは恋愛感情ありきで……。分かります? 恋愛感情」
執事が諭すように言う。バニラはなんのことやらと言わんばかりに、
「それくらい分かるわよ。キュンとしてズキューンでしょ」
狐の眷属が紅茶を吹き出す。噎せながら、
「ひ、姫。本当に大丈夫ですか……。結婚するということは同じ屋根の下一緒に暮らして、色んなことを一緒にするんですよ……?」
「もちろん。するわよ」
眷属と執事が見つめ合い、深い嘆息をし項垂れる。
「まあいいわ! それで、今勇者がどこにいるかだわ。デパ、チユ、探しに行きましょう!」
メイドが洗濯物を干し終わったようで、
「おそらく、先程出ていかれましたし、まだ街の中にはいるかと存じますよ。今なら間に合うかと」
「わかったわ! さあ、二人とも用意して! 行くわよ!」
執事は呆れながら、
「わかりました、バニラ姫。私もバニラ姫の恋路の邪魔して蹴られたくないので行きましょう」
「ぼくは、姫様が結婚するのは嫌にゃー……」
小さく呟く眷属を無視し、バニラ姫一行は、城下町へと向かった。

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