冬キャンプを舐めていて歯が鳴った話

 あけましておめでとうございます。コロナ禍もちょっと終わりが見えなくなってきましたが、そんな中だからこそ、密を避けて何らかの楽しみを見つけて生活していきたいですよね。

 だからと言って今年最後の大寒波ってみんな言ってるのに前日に予約してキャンプに行くと歯が鳴って震えるって話を書きます。

 令和元年ぐらいから川遊びとかキャンプをやり始めて、コロナ禍になってなかなか遠出は憚られるようになってしまった中、キャンプはまあある程度他の人とは距離取れるし、後は体調管理していけばわりとセーフなレジャーだなという感じで、リスクを低減する方法を考えながら、ぼちぼち楽しんでいた。

 最初にくそ安いテントを買ったら豪雨で「あっ これ今半身雨水に浸かってるな」とかあったり、食料を余らせてしまったり、日除け用に買ったタープを風除け用に流用しようとして全壊したり、いやもっとちゃんと調べてれば回避できただろという失敗を繰り返し、まあどうにか、一通り初心者キャンパーと言えるぐらいの装備と技術を整えることができた。普通に1年かかった。あれはいいな、欲しいな、でもまだ使いこなせないかもな、じゃあこれで試してみよう、そんな試行錯誤も楽しく経験してきた。

 しかし、これからキャンプを趣味としてやっていく上で、避けられないイベントがあった。冬のキャンプである。

 わりと序盤で豪雨で失敗しているので、まだそれに耐えうる装備もないということで、天気は調べるようにしていた。春は暖かいし夏は暑い。秋はまあちょうどいい。手持ちの装備でどうにかなっていた。楽しさが積み上げられていく。致命的な失敗を避けられるようになっていた。そう思っていた。

 そして年末である。参加する人数は少ないのだが、それでも社会人なのでなかなか予定をガッチリ決めるのが難しい。それに加えてそれぞれの好みと言うか、野趣溢れる感じがいいとこが好きな奴もいれば、トイレ和式は正直きついという奴もいる。色々プレゼンし合って、しかも仕事の予定で色々ずれつつ、初の冬キャンプを迎えるキャンプ場を予約できたのは、ぶっちゃけ前日だった。共用の露天風呂まであって一人頭3000円前後というのは破格だった。

 実際、何の不満もなかった。午後のチェックインちょうどに辿り着くと、ファミリー層や自分たちのような小グループ、それにソロ組などバランスがよく、さすがに風呂は混むのではないかと思ったが、ほどよくバラけていた。寒くなるので薪はたくさん買ってください、開けないで余ったら返金できます、そんな暖かい言葉をかけられ、セッティングを済ませて、のんびりした時間を過ごす。海が近いので、軽く食事をしてから「波が高いねえ」「冬だねえ」とか言って戻り、各々食べたいものを調理して、うまいうまい言って時間が経っていく。すぐに暗くなり始めて、ランタンの使用可能時間は決められていたが、それを過ぎると、ボリュームを下げたささやかなラジオ、炎を上げないように抑えた焚火の爆ぜる音、どこか密やかな話声、いつもとは変わってしまった年末をささやかに過ごそうという、互いを想い合う心が響き合うような時間が過ぎて行った。

 だが―――そう、どうして、そう思うほどに、足先の感覚がない。焚火台の真下に全員靴を突っ込んでいる。食事はした。ありきたりなステーキ、地場の干物にキノコ、よく煮込んだシチュー。食べに食べた。そしてお湯で割った焼酎も飲んだ。ああ、でも、その確保したはずの熱量が片っ端から外気に奪われていく。年越しの瞬間を迎え、もう多分今なら煌々と熱量を持つ炭を掴んでも大丈夫なのではと思うほど指先は冷え、足の指先はどこかその存在を遠く感じるほどだった。

 風はほとんどなかった。海が近いキャンプ場と考えると、ほぼ奇跡といってよかった。それでも、吐く息の白さと濃さは都会とは比べ物にならない。ああ、呼気を何かに当てれば水滴になって凍るだろうと思えた。

 初日の出を見よう、きっともうテントの方が暖かい、睡眠時間は6時間取れる。チェックアウトまでは余裕があるし、少しゴロゴロできる。そう約束して、各々のテントへと潜り込んだ。それぞれの防寒具があった。グラウンドシート、底冷えを防ぐはずのマット数種類、厚手の靴下に、ぶっちゃけ毛布まで持ってきていた。

 全く眠れなかったと言えば嘘になる。寝袋に身体を突っ込み、その上に毛布をかける。大分重ね着もしている。ああなんだ、これなら…いや待て、嘘だろ。寒すぎる。何もかもが完全に冷えている。上半身はまだいい。動かせる。見える。下半身、足の指先が、これは本当にダメかもしれないと思うほど冷え切っている。半身を起こし、寝袋と二重の靴下の上からよく足を揉む。大丈夫だ、確かに血流は良くなかろう、だが一時的なことだ…そう思って横になり、それこそ自分の寝息を感じながら意識を手放す…手放せない。だって寒いから。マジで寒いから。

 分断された睡眠は精神を追い詰めていく。意識が寒さによって強制的に戻される度に、少しずつ外は明るくなっていく。明るくなればなるほど、全身が硬直していく。筋肉を緩められない。朝を迎えて、外からの物音で起きて出てみると、何もかもが凍り付いていた。道具やゴミはしまっていたが、まあ椅子とかは大丈夫だろと思っていたが、パキパキになっていた。そしてテントの表面も凍っていた。

 誰ともなしに薪に火をつける。しばらくその周りで何も言葉が生まれなかった。シチューの残りと食パンを直火にかけ、誰もが貪るように飲み込んでいった。火に当たって何か食う。誰かが震える声で「文明…」と言ったのが聞こえた。

 グループの一人は、日の出前に起きて砂浜に行ったようだった。明るくなってきたしすぐ日も昇る、そう考えてから30分待たされたらしい。もう終盤みんなウホウホ言いながら火に当たって何か食べてた。つまみ用で残ったコアラのマーチとか争奪戦起きてた。

 日が昇ると、氷が解けて「ああ、撤収しなくちゃ」という現実的な問題を思い出したが、焚火の前からしばらく動けなかった。判断力も大分鈍っていて、もう何度も扱っている自分のテントをちゃんと収納できなかったり、食器を二回洗いに行ったりした。ギリギリまで休んで戻ってきて、「冬はプロのものだからもうやめよう派」「帰ってゆるキャン観よう派」「三が日セールやってるからアウトドアショップ行こう派」「いっそ共同出資でキャンピングカー買おう派」など錯乱しつつ分派し、戻ったら戻ったで酒余ってるから飲むかってなってアホみたいな喧々諤々して最寄りの神社入って小銭全部入れてきた。

 冬キャンプを舐めていた。それだけは言える。だが、楽しかったこともまた事実ではある。今後また行くかどうかは議論の必要があるが、あの澄み切った星空を見上げた瞬間と、足の親指どこいったの感だけは、何物にも換えがたい経験である。

 

 

 

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