相談されることの難しさ

 まああんまりうまくいってないんだろうなって横恋慕の話なんか聞いていると、いやそんなんそもそもがうまくいくも何もないって話だしむちゃくちゃアドバンテージ取られてるし幻の希望に縋りついてるだけだなあと思うけども、そんなんそのまま言えないので、そうねえ、まあねえ、なかなか難しいかもねえとか言いつつはぐらかしながら、あまり辛くない着地点はないものかと考えていた。

 だが4時間以上完全な繰り言を逆に休み休み続けられると、あれ? この人はぼくの話を聞く気がないのでは? という思いが強くなってくる。まあ分かる、分かるよ。大体そういうもんだよ。それで多少でも気が楽になるならいいけどそうでもないみたいだしじゃあこの4時間は何なんだろう? バイトでもしたらわりとうまい飯が食えるのでは?

 それに加えて加齢と共に昔よりやや怒りの沸点が低くなっていて、なんだろ、ぼくはあなたに元気でいて欲しいから、まあね、しょうがないよねとか落としどころを探しながら話を聞いているけど、あなたはエゴの巨大なボールをぶん投げてくるだけでこっちのエゴと溶かし合わせて有用な結論を模索していく気がないのだなとある一点で決めつけてしまい、最終的にむちゃくちゃ厳しい言葉をぶつけてしまった。ほぼ罵倒に近かったと言っていい。

 頼むからその関係者の不幸を願うようなことを言わないでくれ、その話をしている時の顔はひどく悍ましい、その顔とその声が入ってくる度に力が奪われる、俺に嘘をつかせてまで安易な結論に執着していたいならそうするがそれは誠実ではないと思うしそんなことはしたくない、あなたが本当は明るく楽しい人間だということを知っているだけにめちゃくちゃ辛い、この4時間が全くの無駄であったことも辛い、さっきから動悸が上がっている、しんどい、あなたは悪くないと言いたいが正直やっていることから考えるとぶっちゃけ悪い方にすら判断できる…

 ギリギリでブレーキを踏みながらそこぐらいまでで力が尽きた。指がガクガク震えた。相手は呆然としていた。そして泣き出した。そりゃこんなん言われたら泣くよなと思ったので何も言えなかった。温厚なあなたをこんなに怒らせてごめんなさいと言われた。何も言えなかった。本当は全然温厚ではなくなってきているのが分かっていたからだ。そして問題の本質はそこではないからだ。俺も泣きたかった。なんでそんなこと言うんだろ、いつもみたいにバカ話で笑ってくれよ、そう駄々をこねて床で失禁でもできたらいいのにと思ったがそうもいかず、かと言って明らかに言いすぎているのに言いすぎましたとも言えず、うん…うん…と言うしかなかった。しばらくしてからようやく自分からも謝罪の言葉を口にしたが、あまり悪いと思えておらず、それも辛かった。帰ったら血便が出た。ワクチン二回目が間に合っていればもっと強い人間でいられたのだろうか。

俺はまた一つ何かを失いそして得た。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?