利己的であろうとする事の果てに

 しましまうまうまバーというアイスをご存じだろうか。       

 今年の4月にセブンイレブンでの限定商品として発売され、SNSでも話題になった森永製菓の商品で、さわやかなバニラ部分に、どこから食べてもパキパキとした食感と濃厚な甘さが楽しめるチョコレートが挟み込んである。

 夏であれば最低でも週に1回、その他の季節でもそれなりの頻度でアイスを食べる人間として、今月の再発売のニュースは見逃せなかった。むしろ一度見落としているのだ。情報は公式から発信されていたのに、前日の夜に違うアイスをセブンイレブンで買っていた事実が、より強くしましまうまうまバーへの購買意欲を高めていた部分もある。

 多分、4月の初対面では、何気なく買った記憶がある。酒を飲んだ帰りか何かで、手頃な値段のアイスとして買ったような気がする。あれ…これはもしかしたらものすごくうまいのでは? そんな記憶を保持したまま検索にかけると、やはりと言うかなんと言うか、既に話題になっていた。

 そして今日である。銭湯からの飲みという個人的豪遊コースが入っており、その〆としてのアイスを決め打ちできる状態。こんなことで脳内麻薬が出てしまうのではないかと思うほど、あの味を舌が待ち構えていた。

 ほどなく飲みの席も終わり、最寄り駅に戻り、満を持してセブンイレブンに寄る。4月の頃が思い出される。一度食べてその美味さにハマり、多めに買おうとした頃にはもう遅く、近場のセブンにはもうその姿はなく、正直いくつかセブンを巡ったことを覚えている。

 だが、今はまだ十分に在庫はある。家でゆっくり食べてもいいし、焦りながら包装を剥がして、歩きながら食べてもいい。そう――1本、1つだけあればいい。そのはずだった。そしてまた、あの時の思考が再生される。

 1本140円。コンビニアイスとしても、そこまで割高な価格ではない。美味しいものなのだから、まとめ買いしてもいいはずだ。あの時も3本だか4本だか買って、ストックしておいたはずだ。いや待て、嘘をつくな。

 お前はあの時、その店のしましまうまうまバーを8割方買っただろう。

 アイスは生活必需品ではない。なくても死なない。生活は特に不便にならない。嗜好品の類だ。限定商品とは言え、一度あれだけ話題になった商品だし、増産しているに違いない。好きなだけ買ってしまえ。アイスの買い占めで炎上なんて起こるわけがない。そうだろう?

 でも――俺がここにあるしましまうまうまバーを買い切ったとする。俺はきっとツイッターだけでなくリアルの知人にも、このアイスの話をするだろう。だが、その影響力は、俺が買い占めなかったらこのアイスに出会えた人たちがそれを語ることを越えていくだろうか?

 トータルで越えればいいというだけではない。なんだこのアイス見たことないな、美味しそうだな、結果すごくおいしかった! …その体験を奪うことになってしまう。このアイスはうまい。新鮮にうまい。何度食べてもそのうまさは色褪せないと思える。だが、自分が何の情報もなしに選んだ商品がとても美味しかったという喜びを、この地域から一つ消してしまうのだとしたら?

 冷蔵ケースの前でしばらく固まった後、俺はしましまうまうまバーを4本買った。残りは十分にあるはずだ。補充も期待したい。美味しいもの、大したことはないかもしれないけど、コンビニという日常の枠でそれと出会える喜びが広がることで、俺はよりおいしいものと出会いやすくなるはずだ。そう信じたい。本当は全部買いたかった。だってスーパーうまいから。

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