見出し画像

#52 思考体力 ご存じですか?

  「思考体力」とは、簡単に言うと「考え続ける力」のことです。東京大学先端科学技術研究センター教授の西成活裕さんが、体を動かし続ける「運動体力」になぞらえ、あきらめずに考え続ける力をそう名付けたものです。その中で西成さんは「思考体力」は、六つの力が絡み合って発揮されると言っています。「自己駆動力」「多段思考力」「疑う力」「大局力」「場合分けの力」そして「ジャンプ力」だそうです。この話の中で私が特に興味を持ったのは、「多段思考力」の話についてご紹介します。

 まず「自己駆動力」ですが、これは「思考体力」の原動力・ベースとなる、車のエンジンのような力です。好きなものと結び付けて引っ張っていき、それを生きた経験として獲得させることができたとき、やる気が育っていくということです。

 次に人が夢を持ったとき、そこをスタート地点として、目標や答え、ターゲットなど、ゴールを目指して上っていきますが、その「もう一段先」「もう一段先」と考え続ける力が「多段思考力」です。

 たとえば「今晩、何を食べようか?」と考えたとき、「カレーの匂いがしたからカレーが食べたくなった」と思うのは「単段思考」です。「昨日は肉を食べた。だったら今日は魚にしようかな」と考えるのは「二段思考」です。「あさって夕食会があって、おとといはこれを食べたし、…」と、あれこれいくつも考え、その上で、「今日は何を食べようか」と決めていくのが「多段思考」です。
 プロの将棋の棋士は100手先ぐらい考えて将棋を指しているそうです。もちろん普通の人はそんな先まで考えたら、途中で疲れてしまうと思います。でもプロ棋士はそれだけ考えても疲れない「思考体力」があるのですね。いろんな不確実要素がある中で、「もし雨だったらこっちでやろう」とか「時間が遅れたらこうやろう」とか、いろんなケースを多段的に考え、そのケースによって対応をあらかじめ考えている人は、危機に対しても早い決断ができます。

 ここからが大事なのですが、大抵の人は、「早く」「得して」「楽に」と考えがちです。(もちろん私もこの大抵の人の中に入ります)多段で考えていくには頭を柔軟にして、「遠回り」や「損」、「手間」も含めた幅広い発想をすることが求められるというのです。そして、その中から本当の最善策が生まれるのだと思います。目先の損得にとらわれずに発想を広げ、もう少し考えた上で答えを出す。そのことによって、また一段深めることができます。この一段一段の「もう少し」「もう少し」が、長期的に大きな差になっていくと言ったことを西成さんは主張されています。

 人は元来、楽をしたいと考える生き物です。基本的には複雑に物事を考えたがらないものです。でもそれではダメだと言っているのです。

 よく昔から親が子どもに「テレビばっかり見ていると・・・」と言ってテレビの見過ぎはよくないと口癖のように言っていましたが、これはあながち間違っていないように思えてなりません。その理由は、テレビも分かりやすさを追求するあまり、「単段思考」か、「二段思考」くらいで見せようとしている番組があまりにも多いと思いませんか。確かにそれはインパクトがあります。面白いし、新しい情報をキャッチするのにもよいでしょう。 しかし、それだけに頼るのは非常に危険です。何段もかけて、背景や理由を丁寧に説明しているような新聞や書籍などからも情報を得るように心掛けてほしいものです。そうすれば、誤解なく、より真実に近づくことができます。

  人は基本的に問題が生じても、面倒くさいことは早く終わらせたいから、「多段思考」をしたがらないのです。普段の生活の中では、単段思考か二段思考くらいで物事を考え、判断していると思います。それを続けていると、運動しないと体の体力が衰えるのと同じように、思考体力が衰えて複雑なことが考えられなくなってしまうという点が特に気になりました。

 教室の授業でも同じことが言えると思います。子どもたちに知識を求める発問ばかりで授業を進めていくことをしていたら、それは子どもたちに単段思考を強いているわけですから、これでは学習の中で子どもたちに思考力がつくわけはありません。また子どもたちに正解ばかり求めて発表させて進めていく授業も、一問一答方式のクイズ番組と同じような展開に陥りやすいので、単段思考の授業と言えると思います。

 今教育界で求められているのは、「主体的・対話的で深い学び」です。この「深い学び」の意味するところを授業者はよく考えて、授業の中で子どもたちに多段思考を繰り返し経験させていかないと本当に思考が深まった深い学びが創造できないのではないでしょうか。子どもたちに多段思考をさせることで、考えることの楽しさや知的好奇心を高めていけるものだと思います。

 そのためには、授業者が授業の中で子どもたちに強い疑問(問題意識)を生じさせて、予想させたり、思いを巡らすことを意図的に仕組んだり、葛藤を生じさせていかなくては多段思考へと子どもたちを追い込むことはできないと思います。

 また子どもに限ったことではなく、大人である我々も、考えるのをすぐにやめて簡単に結論を出してしまったりせず、考え続けたり、幅広い視点から多角的に考えたりしていかないと、思考体力が衰えてしまい、難しいことが考えられなくなってしまうのは、同じだと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。




よろしければサポートをお願いします。これからもみなさんに読んでいただきよかったと思っていただけたり、お互い励まし合い、元気が出る記事が書けるよう有効に使わせていただきます。