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#29 インドの地下鉄総裁の話

 日本のある政府高官が、日本の援助で作られた地下鉄の視察にインドを訪れた時の話です。その地下鉄が70%の日本の資金援助であることが一目でわかる表示をしてくれたことに対し、インドの地下鉄公団の総裁にお礼を言うと、総裁から以下の話をされて逆にあらためて感謝された、と言います。

インドの地下鉄総裁の話
 「自分(総裁本人)は技術屋のトップだが、最初の現場説明の際、集合時間の8時少し前に行ったところ、日本から派遣された技術者はすでに全員作業服を着て並んでいた。我々インドの技術者は、全員揃うのにそれから10 分以上かかった。
 日本の技術者は誰一人文句も言わず、きちんと立っていた。自分が全員そろったと報告すると、『8時集合ということは、8時から作業ができるというようにするのが当たり前だ』と言われた。
 悔しかったので翌日7 時45 分に行ったら、日本人はもう全員揃っていた。以後このプロジェクトが終わるまで、日本人が常に言っていたのが『納期』という言葉だった。決められた工程通り終えられるよう、一日も遅れてはならない、と徹底的に説明された。
 いつの間にか我々も『ノーキ』という言葉を使うようになった。これだけ大きいプロジェクトが予定より2か月半も早く完成した。もちろん、そんなことはインドで初めてのことだ。翌日からは、今度は運行担当の人がやってきた。彼らが手にしていたのはストップウオッチ。これで地下鉄を時間通りに運行するように言われた。秒単位まで意識して運行するために、徹底して毎日訓練を受けた。その結果、数時間遅れも日常茶飯事であるインドの交通機関の中で、地下鉄だけが数分の誤差で正確に運行されている。
 我々がこのプロジェクトを通して日本から得たものは、資金援助や技術援助だけはない。むしろ最も影響を受けたのは、働くことについての価値観、労働の美徳だ。労働に対する自分たちの価値観が根底から覆された。日本の文化そのものが最大のプレゼントだった。今インドではこの地下鉄を『ベスト・アンバサダー』と呼んでいる。

 時間を守ること、そのために見通しを持って行動すること。これは日本の文化の一つだと思います。我々日本人が常識としてこの意識を形成していく上で学校教育の果たす役割はとても重要だと私は考えます。
 インドの方が日本のハード面(優れた技術)だけでなくソフト面に着目され、それを最大のプレゼントだと評してくれたことが日本人として嬉しく感じました。
 日本の学校は学習内容だけを子ども達に教えるところではありません。とかく学力ばかりが世間では注目されますが、時間を守って生活をすることや、見通しを持って行動することなどは、学校の教育活動を通して子ども達に身に付けさせていかなくてはいけないことだと思います。

 こう考えてみると、学校で基本的な生活習慣を子どもたちに指導していることの意味、今の日本人らしさを形成していることに学校教育がいかに大きな役割を担っているかおわかりいただけたかと思います。そういうことを理解した上で、先生方、子どもたちの指導をしっかりお願いします。(だからといって学習指導をおろそかにしてよいということではありません。誤解なきよう。)

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。



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