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#124 日本の食糧自給率が低いことになっているカラクリ(小5社会)

「食料自給率37%の日本、世界の消費激増に耐えられるか」

 これはある新聞の電子版記事の見出しです。このように「食料自給率37%」を「枕詞」として使って「食糧危機」や「飢餓」を連想させ、国民を煽っているニュースや記事があとを絶ちません。この「日本の食糧自給率が低い・37%」と政府もマスコミも言っていますが、はたして本当に日本の食糧事情の実態を正確に表したものなのでしょうか?国民である私たちも案外このフレーズをよく考えないで、鵜呑みにしてしまっていることはないでしょうか?

 今回はこの点について私がこれまで調べてきたことをお伝えしたいと思います。

 まず最初に、結論です。これは嘘です。

日本の食糧自給率は低くありません。

 世界標準のデータである国連の統計によると、国民一人当たりの農産物・食料品輸入「額」は、日本よりドイツ、カナダ、イギリス、フランス、スペイン、イタリア、韓国の方が高くなっています。ドイツなどは日本の約2倍、イギリスは約1.5倍です。日本が食糧自給率が低いということになれば、これらの国々は日本よりさらに自給率の低いかなりやばい国ということになるはずです。しかし、なぜか日本国内では先進国の中で日本は最も食糧自給率が低いということになっていて、政府もマスコミも小学校5年の社会科の教科書も日本の食糧供給の心配をひたすら国民に煽っています。じゃあなぜ日本より一人あたりの農産物・食料品輸入「額」が半分しかないドイツでは大騒ぎしていないのでしょうか?

 ここに『食糧自給率』のカラクリがあります。

 日本国内でのみ通用している「自給率」とは、農水省が発表している自給率の計算の仕方であって世界標準ではありません。この考え方は日本国内独自の特別な自給率の算出の仕方なのです。大雑把に言うと分子は『国産』で分母は『国産+輸入』です。なので、この計算式では海外から食料を輸入できる外貨を持つ豊かな国は軒並み『自給率』が下がることになるのです。

 この農水省の計算の仕方に当てはめると、北朝鮮は国民は飢えていて毎年餓死者が出ていたとしても、輸入する外貨がないから農水省の算出方法だと『自給率100%』ということになってしまいます。(北朝鮮の方、すみません。でも事実です。)しかし、日本はこの「生産額ベースの自給率」で計算しても自給率は69%ほどあり、実はけっこう高いのです。しかも国民一人当たりの農産物・食料品輸入額も先進国の中ではアメリカに次いで低いのです。これは厳然たる事実です。

 農水省が計算している自給率はこの生産額ベースの自給率でもなく、実は『カロリーベース』自給率なのです。日本にとって食糧の中でカロリーの高い肉と小麦の多くが輸入だから、これで計算すると自給率は69%から47%にまで下がってしまうわけです。しかし、もっと自給率を下げて国民の危機感を煽るために考えついた悪知恵が、「飼料が外国産の国内産の肉も輸入扱いにしよう」ということで、国産の豚肉や牛肉も輸入扱いにして、食糧自給率『37%』という数字にまで下げて(でっちあげ)、『大変だ!!』と騒いでいるのです。

 そもそも農水省の計算方法の『食糧自給率』を上げるのは理屈としてはいたって簡単です。カロリーベースの計算しているわけですから、カロリーの高い小麦と肉と飼料の輸入を止めればよいだけです。そうすれば日本人の病気の大きな原因であるカロリー過多による肥満も減り、医療費削減効果もあり一石二鳥で好都合だと思います。そのかわりにお米と近海の小魚をもっと食べましょう!! うどん屋とパン屋と焼き肉屋さんは商売に困るでしょうけど…。それでもだれも餓死しません。お米を食べればいいんですから。

 では、なぜそんなに自分の国(日本)の食糧自給率を下げたがるのでしょうか?

 それは、予算を確保するのに国内の自給率が高くては都合が悪いので、こんな悪知恵を考えついたのです。でもこのカラクリを理解するなら、農水省の言う食糧自給率が低いということは、皮肉にも国が豊かであるという証拠になるのです。言い換えるなら、パンも、うどんも(小麦)肉もワインもチーズもキャビアも海外から輸入して、好きな時に好きなだけ食べられる贅沢が日本にあるということです。外貨の少ない豊かでない国は残念ながら海外から食糧を輸入するお金がなく、自国産の食糧だけで生活を賄わなくてはいけないわけです。だから『食糧自給率』が高いのです。

 ですから、日本が豊かであるうちは、絶対に達成できないからこそ都合がいいのが、日本独自の計算式で出される食糧自給率目標なわけです。この計算方式を続けていく限り、永遠に自給率向上という名目で予算がゲットできるわけです。

 もうそろそろこのようなプロパガンダに振り回されないようにするには、私たち国民一人一人が賢くなることだと思います。私たちは(食料を輸入する国力がないために)食糧自給率が高い国(北朝鮮など)ほど餓死者が多いという世界の現実を直視する必要があります。

 そもそも農水省の計算方式の自給率を上げる必要はあるのでしょうか?

 オランダやベルギー、シンガポールなど日本以上に人口の割には国土が狭い国はいくらでもあります。国土が農業に適さない国もあるでしょう。それらの国々のすべてが、小麦も牛肉もワインもキャビアも全て自国産でなければいけませんか?日本の「(潜在的)自給力」は高い方だと私は思います。日本のように豊かな土地と豊富な雨に恵まれている国は世界中にそんなに多くありません。そんなこと世界の地理をちょっと勉強すれば分かることです。

 人類の歴史からこの問題をとらえてみるなら、人類はそれぞれの地域の気候風土の特色を生かしてその地域の得意なものを生産して、その生産物を交換することで発展してきたのが歴史の偽らざる事実です。多くの国とお互いが得意な生産物を交換する良い関係を作っておくことは「食の安全保障」を考える上で、とても重要なリスク分散戦略だと思います。(まあ、日本は小麦や牛肉はA国に実質押しつけられているわけですが、それはお付き合いですから、嫌なら止めればいいだけです。たぶん無理でしょうが。)その上、国民が食べきれないほど米を作る食糧自給「力」があるのが日本なのです。だから、自給率なんてあまり気にせずにそれぞれの国がその国の気候風土に合ったものを作り、お互いに交易し合えばいいのです。それが人の世の常なのですから。

 ちなみに、国連データから農業等の第一次産業就業人口からその人口比率を表にしてみました。そうするとフランス、カナダ、ドイツ、イギリスなどに比べて日本の第一次産業就業比率がかなり高いことがわかります。(内訳:日本1.8%、フランス1.1%、カナダ0.8%、アメリカ0.7%、ドイツ0.6%、イギリス0.5%、シンガポール0.02%)

 大切なのは食糧自給率ではなくて食糧自給「力」です。「自給力」(ポテンシャル)は高いけれど「自給率」が低い(?)というのが日本の現状だと思います。

 もう一つ、農水省が、この50年間ずっとコメの減反政策を進めてきたことをおかしいと思いませんか?私は5年の社会科でこの単元の授業になるといつも子どもたちへ疑問を投げかけていました。農水省はこれまでずっと食糧自給率が低い!低い!と食の安全保障を煽ることをしてきているのにコメの減反政策を進めてきているのです。自給率が低くて食の安全保障が心配だと言っておきながら、一方ではコメの生産を減らせ減らせと農家に言ってきたのです。これって矛盾していませんか?

 これはあくまで私見ですが、日本の農業のお家芸ともいえるコメをどんどん作って、安くて美味しい日本のコメを輸出すれば、農水省が言うところの自給率だって上がります。国内で消費しきれないのだったら輸出すればいいだけの話です。現代は世界中で空前の「すし」「日本食」ブームです。特にすしで使うシャリは、日本のコメでないとあのねばり、食感はでません。インディカ米ではすしはにぎれないのです。日本のコメを輸入したがる国はいくらだってあるはずです。またもし、海外の意地悪な国が小麦の輸入をストップしたら、輸出していた米を国内に振り分ければいいだけの話になります。(C国の富裕層は日本の米を高いとは思わないでしょう。ただしC国の残留農薬基準は日本の農薬基準より厳しいのでひっかかる可能性はあります。)

 自給率が低い低いと言っておきながら、実質的にコメの減反政策を維持していることに私は違和感しかありません。

 いろいろ調べてみると、私たちがよく知らないからといって煽られて意図的に操作されていることは食糧自給率「37%」問題だけでなく、もっとあると思います。だから国民一人一人が自分に直接関係のないことも関心を持たなくてはいけないと思います。(私は専門が社会科なので今回は社会科に関係する記事を書かせていただきました。けっして某国の政治を批判する意図はありません。)

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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