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#44 人生を因数分解してみると!

 『因数分解ってなぜ勉強するの?』
 現在大人になった皆さんも学生時代に数学で因数分解の問題を解いたと思いますが、その学習に何の意味があるのか考えたことはありますか。大方の人は、「テストに出るから(解いていた)」と言うのが本音だと思います。しかし、教える側の立場になると、それではすまされないものがあります。以下はある方の本の一節です。数学アレルギーの方でも、きっと興味を持たれると思いますので、是非最後までお読みいただければと思います。

 数学の考え方というのは、人生に応用できる部分が数多くあると言われています。数式というのは、掛け算にするとそのすべてが丸裸になるという性質があります。たとえば、ここに「2×3=6」という式があります。6というのは、2と3を掛けた結果です。それがわかった時点で、これは素因数分解(素因数の積で表した形)ができたことになります。逆に言うと、因数に分けるということは掛け算の形にするということを意味します。
 では、因数というのは何でしょうか? これは読んで字のごとく、「原因になっている数」のことです。そして、原因というのは、それ自体の性質そのものです。ですから、6という数は2の性質と3の性質が合わさってできたものだということがわかります。逆に言うと、2と3は互いに掛け合わされることによって、今まで自分が持っていた特長を失うことなく相手の要素をも身にまとうことに成功します。
 つまり、今までの自分を生かしたまま、さらなる高みへと昇華する。しかし、たし算はこうはいきません。「2+3=5」の5には、2の要素も3の要素もありません。もちろん、これはこれで異質なものへの変化であるとは言えますが、自分らしさを失うことがあるのが足し算なのです。組織も家族も友人も恋人も、足し算より掛け算で生きていきたいものです。そういう意味でも、掛け算の形に直す練習をするということは、実はすごく重要なのです。
この考え方は、社会に出たときにも役立ちます。 たとえば、仕事で何か成果を上げようとしたとき「成果=時間×能力」で表されることがわかったとしましょう。そうすると、この式は「成果」を掛け算の形にしたことによって、因数分解したということになります。
 この瞬間、よくわからなかった成果というものが丸裸になります。つまり、成果を高めるには「時間」をかけるか「能力」を高めるか、そのどちらかしかないということです。
 ここで考えてほしいのは、「時間」はみな同じだけしかありません。1日は最大24時間で、それ以上増やすことはできません。でも、「能力」はある意味無限大に伸ばすことができます。だから、「成果」を上げるためには、時間を増やそうとするよりも、能力を高める方が近道なんだと言うことがわかるのです。
 参考までに、掛けるというのは、先に述べたように自らの特長を生かしたままほかの特性を身につけ、次元が変化することです。そして足し算(加法)というのは同種の量をまとめるときに使うものです。「これとこれのデータをまとめておいて」と言われたら、それは足し算をすればいいわけです。しかし、異種同士というのは足し算ができません。「5人」と「5個」というふうに、単位が違うものは足すことができません。一方、引き算(減法)は同種を比較するときに使います。比べるから差が出て、それが答えになるのです。だから、ビジネスで言えば比較をしたいときは棒グラフにしたりしないとわからないわけです。

 京セラの創業者である稲盛和夫さんの「フィロソフイー」という有名な考え方に、

「人生 (仕事)の結果=考え方×熱意×能力」があります。

 考え方と熱意と能力という3つの原因(=因数)を組み合わせることで、初めて仕事や人生の成果が出るというものです。この式で熱意と能力はいずれも負の数にはなり得ませんが、考え方に関しては間違った考え方であれば負になり得ます。つまり、どれだけ熱意と能力の数値が高くても 考え方が負であれば、恐ろしいことに結果は大きな負の数になってしまうのです。
 このようにとらえるなら、素因数分解の本当の意味というのは「構成要素に分類して丸裸にすることで、最大成果への優先順位を決めること」と考えられます。だから、ただやみくもに成果を求めるよりも、それを掛け算にしてみることで、どこに力を入れるべきかすぐにわかるはずです。
 そういうふうに考えてみると、仕事のやり方や人生の過ごし方が、因数分解によってちょっと変わってくるのではないでしょうか。そんな簡単な数式に収まるほど人生は単純ではない、もっと複雑なはずと人は考えがちですが、自然界の法則などはどれも比較的簡単な数式で表すことができるものです。物事の本質は案外我々人間が考えているよりは単純なのかもしれません。人間がそこに複雑な要因を持ち込んでしまって、見えにくく、わかりにくくしているだけなのかもしれません。

 次に立命館アジア太平洋大学の学長の出口治明さんの人生を因数分解で考えてみる話も面白いと思いました。

 「皆さんは美味しい料理とまずい料理、どっちを食べたいですか?」と問い掛けました。誰に聞いても「美味しい料理」に当然決まっています。では、なにが「美味しい料理」と「まずい料理」とを分けるのか、と出口さんは問いかけます。両者それぞれを因数分解してみると分かるという考え方です。
 料理は「素材」と「調味料」と「調理法」の三つに因数分解できます。即ち、まずい料理とは、古くなって素材の味が落ちていたり、調味料の分量が間違っていたり、調理法、たとえば茹で時間や炒める時間が適当だったりすることが浮き彫りになってくるのです。
 一方、美味しい料理には、新鮮で良質な素材、調味料の正しい分量、そして熟練された調理法の三拍子が揃っていることは間違いないことが見えてきます。これくらいはちょっと考えれば分かることですが、問題は、出口さんが次に投げ掛けた質問です。

「皆さんは美味しい人生とまずい人生、どっちを送りたいですか?」

 これも因数分解してみます。「美味しい人生」はどういうもので構成されているのか。「新鮮で良質な素材」に当たるのが、常に更新されている「知識」です。ひと昔前の価値観や自分の凝り固まった人生観で今の時代を生きるのはやっぱりまずいのです。次に「調味料」に当たるのが、その知識に基づく「経験」や「行動」です。知識をどう解釈し、人の幸せにどう生かせているか、です。そして「調理法」とは「自分の頭で考え、自分の言葉で伝えること。これらがイノベーションに欠かせない」と出口さんは言っています。「イノベーション」とは、「新しいアイデアから社会的意義のある新しい価値を生み出す技術革新」のことです。

 もし、私が学生時代にこんな因数分解の話をしてくれる先生に出会っていたら...。数学の勉強にスイッチが入っていたかもしれません。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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