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有名人の自死報道とコロナによる精神不安に接し〜【再掲】ドキュメンタリー映画「牧師といのちの崖」観賞コラム

 ここ最近、有名俳優や人気芸人による自死が相次ぎ、心を痛めている人も多いかと思う。かく言う筆者もその1人であり、こうしたニュースが報道される度に心が締め付けられる。日本では年間の自殺者数が2010年以降減少傾向だった。しかしこのコロナ禍で増加傾向に転じ、昨年1年間に自殺した人は全国で2万1007人にも及ぶという。

 実は筆者も先月、新型コロナ感染症に罹患し、1週間の隔離生活を余儀なくされた。家族をはじめ、周囲や行政のフォローなどもあり、隔離期間中の不自由はほとんど無かったものの、その孤独感や不安感といった精神的な負担は非常に大きく、コロナの感染拡大による生活不安や環境の変化を自殺増加の原因とする厚労省の分析については非常に頷ける。

 さて本コラムでは以前、映画「牧師といのちの崖」について紹介をさせていただいた。この映画は、自殺の名所として有名な和歌山県南紀白浜の「三段壁」で自殺防止活動に取り組む藤藪牧師のドキュメンタリーであるが、作品に描かれる自殺志願者と藤藪牧師の激しいやり取りは、公開から3年経った今でも鮮明に記憶しており、今尚考えさせられる。そこで、映画公開当時に掲載したコラムを、改めて再掲したいと思う。

今年公開されたドキュメンタリー映画「牧師といのちの崖」の舞台は、和歌山県南紀白浜にある「三段壁」。国の名勝にも指定されている断崖絶壁は観光の名所にもなっている一方で、自殺の名所としても有名になっている。ここに「いのちの電話」を設置し、自殺を水際で食い止める活動をしているのが、本作の主人公である藤藪庸一氏。本業は、白浜バプテスト基督教会の牧師である。彼は、「いのちの電話」の運営のみならず、様々なトラブルや問題を抱え、帰る場所がなくなってしまった自殺志願者の為に教会を開放し、寝食も共にする。そして自ら経営に携わる食堂で自殺志願者とともに働き、対話を続ける中で少しずつ、彼らの自立を促していく。

「愛の反対は憎しみでは無く無関心である」

かのマザーテレサは、そう言葉を残したそうだが、作中に登場する自殺志願者達は、まさに社会から憎まれることもなく、関心すら払われなくなって消えようとしていた「命」である。藤薮牧師の取り組みは、まさにそこに「愛」を注ぎ込む作業であると感じた。しかし「愛」は注ぎ込み過ぎると「憎しみ」にも変わることがある。実際に、自殺志願者と藤薮牧師の激しいやり取りが作品の中でも収められている。
 「愛」と「憎」、その狭間で苦悩し葛藤する藤薮牧師の姿に、大学教員を本業としており、日頃から「生きづらさ」を抱える若者達と関わる機会が多い私は、僭越ながら自分と重ねてしまい、ぎゅーと胸が締め付けられるような気持ちになった。

https://note.com/workshopaid/n/n04b4c684544f

 残念ながら、映画の公開は終了している上、ソフトでの販売やネット配信なども行っていない為、現時点で映画を観劇することはできない。しかし自主上映会を募集しており、全国各地で定期的に上映イベントが開催されている他、50,000円で自ら企画し上映を実施することができるようだ。興味がある皆さんは、是非、自らが発信者となり、一緒にこの問題を考える機会を作ってみてはどうだろうか。マザーテレサが言う「無関心」を「感心」に繋げるために。

映画「牧師といのちの崖」公式サイト:https://www.bokushitogake.com

(text:しづかまさのり)

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