座間事件9遺体の衝撃 不動産オーナーの心配とリスクヘッジ
神奈川県座間市のアパートで、男が9遺体を隠していたという報道が10月30日夜、流れた。衝撃を受けた不動産オーナーも多かったのではないか。アパート経営を副業にするサラリーマンや年金の足しにする高齢者にとって、最大のリスクが「空室リスク」。こんな事件が起きたアパートは、この1棟まるまるが事故物件となり、今後の客付けに苦労することは想像に難くない。自分の物件がそういうリスクをヘッジするには、どうしたらいいだろう。(写真は本文とは関係ありません)
新聞によると、アパートの室内から切断された2人の遺体の一部が見つかり、遺体を損壊した疑いでこの部屋に住む27歳の男が逮捕された。行方不明になっていた23歳の女性の行方を捜索する中で男が浮上、部屋からは計9人の遺体の一部が見つかったという。
現場となったアパートは、小田急・相武台前駅から徒歩圏の住宅街にある。テレビには、アパートの壁に「for rent」の看板が掲げられているのが映っており、今も空室があるようだ。逮捕された男は2カ月前、「無職」として、このアパートに入居したという。
周辺相場は、アパートで月4~6万円。この棟に10室あるとして、満室なら月40~60万円の賃料収入が想定される。年間480~720万円となる計算だ。日本の給与所得者の平均年収が422万円、男性で521万円、女性で280万円だから(国税庁「平成28年分民間給与実態統計調査結果」から、2017年9月発表)、国民全体の平均年収よりも高いわけだ。
だが、こんな事件が起きれば、事件のあった部屋がしばらくは捜査のために差し押さえられるだけでなく、棟内の他の住人も(経済力に余裕があれば)引っ越して出ていくかもしれない。そうなると「9人が殺されていた(かもしれない)部屋のあるアパート」で今後、借り手がつく可能性はかなり厳しくなるだろう。
そもそも、このアパートに空室があったのも、周辺で供給過剰感があるからに違いない。ネットで「相武台前駅」で賃貸物件を検索すると、1000部屋近い情報が出てくる。募集を始めたばかりの新築物件も多く、郊外の古家を建て替えてアパート経営をする人が多い昨今の傾向を反映していると見られる。
そうした「(建て替えによる)新築アパート経営者」にとって、今回のような事件は、将来設計を根本から覆すだけでなく、下手をすれば破たんして、自己破産を招きかねないだろう。というのも、この数年、「100%ローン(フルローン)」なら「自己資金がなくてもアパート経営ができます」という謳い文句で、アパートへの建て替えを勧誘する不動産業者や建売業者が業績を伸ばしているからだ。
いわく、賃料収入とローンの返済がチャラになる計算ならば、頭金がゼロでも不動産経営に乗り出せる。賃料保証をする「サブリース」がついている物件ならば安心だ、という。
だがサブリースにも2年などの年限があり、その後もちゃんと満室であり続ける保証はない。会社勤めの信用力で借りるサラリーマン大家や、老後資金の足しにと目論んだ年金世帯の大家にとって、空室になった途端、ローン返済の不足分は給料や年金から払わなくてはならない。低金利の中、副収入を増やす手段としてのアパート経営が、生活を圧迫し、最悪は自己破産を招きかねないのだ。そうした空室リスクになる最大の危険性がこういう「あり得ない犯罪」だ。
周辺に競合物件が増えると、大家としては焦る。空室が埋まらないよりはマシと、礼金ゼロや敷金1カ月などと、経済的なハードルを下げることもある。今回、逮捕された容疑者のように「無職」でも、即入居してくれるならと貸す場合もある。
無職や高齢を理由に差別するのはアウトだ。けれど、入居者がどんな人物なのかを見極めることは大家業にとって最大のリスクヘッジである。借り手が問題行動を起こしたとしても出て行ってもらうのは難しいし、今回のような最悪の事態になると、一棟アパート物件は1棟丸ごと全滅してしまうからだ。1部屋の事故で1棟全部の借り手がつきにくくなるという意味では、マンションは1棟で所有するより、区分所有で部屋ごとに別エリアで購入した方がリスクを減らせるともいえる。
事件のあった物件の大家は本当にお気の毒だ。無理な借金をして建てた物件でないことを祈る。ともあれ、不動産経営には、こんな「もらい事故」のようなリスクが付いて回るのだ。地震が起きるかもしれないし、飛行機が墜落するかもしれない。ローン返済は賃料で賄うからフルローンでも大丈夫、などと「背伸びをした」返済計画は立てないに限る。
「不労所得」に憧れるサラリーマン諸兄姉、ゆめゆめ油断めさるな。
(2017・10・31、元沢賀南子執筆)