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ワークライフ・コラボが、今考えていること。【後編】ワーコラマガジン〜Seeders(種をまく人々)〜#1堀田真奈

「モヤモヤ」や「気づき」に
寄り添える人を増やしたい。


「ワークライフ・コラボ」は、ワークライフバランスで愛媛を元気にしようという想いから、2007年に活動を始め、2009年に設立したNPO法人です。私たちの役割は、誰もが自分らしい働き方・生き方ができるよう「人と企業と地域をつなぐこと」。そのために、自らがシーダー(種をまく人)となって、さまざまな方々と一緒に活動を続けています。

少しでも多くの皆さんに、私たちの活動を知ってもらいたい。種をまく人になってもらいたい。そんな思いで、「ワーコラマガジン〜Seeders(種をまく人々)〜」を始めることにしました。

1本目の記事はワークライフ・コラボ代表の堀田真奈のインタビュー。ワーコラの誕生話から、活動の本音、大切にしている想いまで話を聞きました。前編・後編でお伝えします。


「人と企業と地域」の3つの視点がそろった

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▲長期休暇に松山市内外の小学生が集まる「休日子どもカレッジ」。社会教育プログラムとして、地域の企業や大学生が子どもたちに1日1回授業を行うなど、「地域で子育て」を具体化する活動を実施している

ーーワーコラは、2017年から長期休暇の子どもの預かり事業「まちのがっこう」を独自に始めています。2019年からは県や市の補助事業として「休日子どもカレッジ(松山市)」「休日子どもクラブ(八幡浜市)」をスタートしています。事業を始めた経緯は?

親の仕事と子育ての両立の観点からスタートしました。保育園は19時まで預かってもらえますが、小学校に上がった途端に学童保育に入れなかったり、長期休暇時の預け先に困ったりする親が多かったんです。これが、次に取り組むべき社会の悩みだと思いました。

企業側の現状はどうなのかを伺うため、実際に企業を訪問すると、子どもが小学1年になると正社員からパートに変わる女性が多く、「夏休みになるとパートさんが辞めてしまう」など、企業側も困っていることが分かりました。そこで、企業側にもCSR(企業の社会的責任)や従業員確保の視点で価値があるはずだと思い、当初は企業の中で「まちのがっこう」ができないかと考えていたんです。何社かに提案もしましたが、相手にしてもらえませんでした。ちょうど国の「企業主導型保育事業」が広がっていたころで、「うちは保育園をするからいい」「小学生なら留守番もできるし、その辺で遊べる(から支援は要らないよね)」というご意見でした。

ーー企業主導型保育事業が広がると、未就学児の受け皿が増加して働く女性も増加するけれど、小学校に上がった後の預け先も増えるという展開にはなっていなかったのですね。

そうなんです。そうなると、学童保育がますます不足します。このままだと親は安心して働き続けることはできないと危機感を覚えました。また、かつての子どもたちは、放課後や休日に友達と近所で遊んでいましたが、今はそんな時代ではありません。子どもは減っているし、子どもだけで過ごさせるにもゲームやインターネット、治安などへの不安が残ります。そういう実態を知らない企業が多いことにも気がかりでした。

必要性を感じていた私たちは早く「まちのがっこう」を実現したかったので、企業に頼らず、ワーコラの事務所があった元幼稚園の「和光会館」で始めることにしたんです。

ーー自分たちでできるところから、スタートしたんですね。

人件費を考えるとどうしても、子どもを預かる1人の利用料金が1日3000円という高めの設定になり、スタッフや会員さんの子どもたち数人でのスモールスタートでした。利用者を増やすためには、ここを選んでもらう体験価値が必要だと気づき、単に子どもを預かるのではなく、1日1回社会教育を入れようと、企業や地域で活動されている人に授業をしてもらうことにしました。

というのも、今の子どもたちは習い事や塾で忙しく、地域で遊んでコミュニケーションをとる機会が少ない。地域の人が子どもたちを叱る場面もほとんど見なくなりました。子どもたちは地域の人と関わりながら、地域への愛情を育んだり、コミュニケーション能力を高めたりできるはずなのに、その機会がないまま大人になろうとしています。でも、企業が社員採用時に重視する資質はコミュニケーション能力じゃないですか。まちのがっこうが、子どもたちにとってコミュニケーションを養う場になり、企業や地域にとっては子どもたちの現状を知ってもらう場になればと考えたんです。そうして、仕事と子育ての両立から始まったまちのがっこうは、「地域」という新たな視点が加わっていきました。


ワーク、ライフ、ソーシャルバランス

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▲現在は70名を超える地元の大学生や高校生たちがボランティアに登録。まちのがっこうを支えている

ーー「地域」の視点はまちのがっこうを運営していくなかで気づいたのですね。「人と企業と地域をつなぐ」というワーコラのキャッチコピーもそこから来ているのでしょうか?

そうです。当初は、「仕事と生活の両立を」という想いだったので、「人」と「企業」の関係を中心に考えていました。「企業」も地域社会の一員ですから「地域」に関わりがなかったわけではありませんが、そこまで「地域」に重きを置いていませんでした。

そもそも、地域という言葉を意識し始めたのは、長女が小学校に上がるくらいからです。子どもの成長に伴って地域の役割を担ってみると、地域との関わりから学んだり救われたりすることがあったんです。

例えば、長女の小学校の運動会のとき、PTA役員で裏方仕事をしてみて大舞台を支える裏方の大変さを実感したり、裏方で満足に見られなかった娘のリレー姿をパパ友が写真に撮ってくれたり、夏休みにはママ友と仕事を調整しながら子どもを預け合ったり。子育て家庭の多様性を知り、「自分の子どもだけが幸せな社会はない」という言葉に出会い、共感し、困ったときは自然に「お互いさま」と想い合えるようになりました。家庭や仕事だけではない地域との関わりが自分の視野を広げ、「ソーシャルがあってのワークライフバランス」なんだと気づかせてくれました。今は「ワークライフバランス」というより、「ワーク、ライフ、ソーシャルバランス」だと思っています。

ーーまちのがっこうを運営する上で課題はありますか?

1日3000円で子ども数人だと完全な赤字。2年ぐらいしてようやく、少し余裕ができました。その後、まちのがっこうは県の補助を受けて「休日子どもカレッジ」に成長し、松山市や松山大学と連携し、松山大学内で運営できるようになりました。運営経費はある。でも、利益を生み出せない。これでは活動を広げ続けられません。それに、松山大学に休日子どもカレッジがあるだけでは、地域社会の悩みを解消できたことにはならないんです。休日子どもカレッジのような場所を増やしたいと思ったら、私たちがまちのがっこうの運営ノウハウを提供する、「まちのがっこうパートナー企業」を増やすなど、収入を増やす仕組みを考える必要があります。

ーー企業にとってはSDGsの取り組みにもつながっていきますよね。

「人と企業と地域をつなぐ」ことがワーコラの役割なので、企業のSDGsにも貢献できると考えています。向上委員会のときから考えると約15年間、関わってくださる人、企業や行政など、信頼のある幅広いネットワークは、私たちの持ち味です。SDGsは「誰一人取り残さない」ために、パートナーシップを組んでやりましょうと言っています。企業単独では利益が出なくて取り組めないけれど、本業を通じたSDGs達成に向けて連携したいなど、企業が達成したいことを私たちがハブになって団体同士をつなぎ、化学反応させるお手伝いができると思います。

ーー“足元”からできることはありますか?

「SDGs」や「サステナブル」と言われると、テーマが大き過ぎて自分ごとにしづらいかもしれませんが、自分の生活圏での「気づき」に目を向けることはできますよね。そうした「気づき」に蓋をせず、考えたり、行動を起こせたりする人が増えたら、社会はよくなっていくはずです。それが、サステナブルにつながるソーシャルアクションだと思うんです。そんなアクションを起こす親たちを「サステナパパママ」と呼んで、しゃべり場「サステナパパママのしゃべり場inえひめ」を3月19日に開催しました。

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▲NPO法人ファザーリング・ジャパンの安藤哲也さんを迎えて開催した「サステナパパママのしゃべり場inえひめ」。地元のパパママたちが仕事と子育てから広がった地域活動や地域課題について語り合った

私自身、息子がスポーツ少年団に入ったことを機に地域の社会教育と関わってみて、教育の中でも発する言葉の暴力性や行き過ぎた指導など、昭和体質が抜けていない世界もあるんだと気づきました。子どもが成長して子ども自身が視野を広げたら、親の視野も広がりますよね。広がった視野で見えた「気づき」には、社会をよくするヒントがあると思うんです。今後も開催する「しゃべり場」で想いや行動をシェアして、考えるきっかけをつくり、サステナパパママを増やしていきたいと思っています。

「モヤモヤ」や「気づき」に寄り添う大切さ

ーー代表として心がけていることは?

「親」として成長し続けることです。子育ては乳幼児期が大変だと言われがち。でも、そのあとが大変でした。小学生や思春期になると手をかける時間は減りますが、心を向ける時間が必要になるからです。親になった途端に立派な人間になるわけではありません。親も成長することが大事だと思うんです。

実は今日、娘が学校を休んでいるんです。仲良くしていたマネージャーと友達が部活を退部して、自分がずっと説得してきたけど、かなわなかったことがひどくショックだったみたいで。「学校に行かない」と言うので、「どうやったら気分が落ち着きそう?」と聞くと、「まずは何も考えたくない」と。私だったら学校に行くけど、娘の気持ちを尊重して休ませました。それでよかったのかはわかりません。「いいから学校に行きなさい」という方法もあったかもしれない。ワーコラを立ち上げる以前の私なら、孤立して悩むだけだったかもしれません。でも今は、相談できる人がいます。娘は私とは別人格なのだと認め、客観視できるようにもなりましたし、そもそも「自分の弱さをみせていいんだ」と思えるようになりました。

なんでもできる人が“強い人”ではなくて、自分の弱さを知ったうえで、できないことを周りの人にカバーしてもらえる人が、本当に“強い人”だと思っています。わが子が悩んだとき、親に弱さを見せられるように、社会がどんなに変わっても、自分で考え行動できるように、親が手本を見せたい。そのために、私は親として成長し続けたいと思いますし、それが代表としての役割だとも思っています。

ーーなぜそう思うのですか?

私の親としての成長が、ワーコラの組織としての成長に直結すると思うからです。ワーコラは、仕事と生活に良い相互影響を与えたいという思いで活動しています。私たちは、わが子が悩んだとき、安心して親に弱さを見せられることと同じように、誰かが仕事と生活に「モヤモヤ」や「気づき」を感じたとき、社会にアクションを起こせるようにしたいんです。その先にはきっと、その人の幸せや社会の幸せが広がっています。そのための情報や場を提供して、「モヤモヤ」や「気づき」に寄り添える人や環境を増やしていくことが、ワーコラの使命だと考えています。


リーダーではなく、シーダーを増やしたい

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▲大学では「日々のモヤモヤに向き合うことに自分の成長がある」と伝えている

ーー「モヤモヤ」や「気づき」に寄り添える人とは?

私は、企業や地域の講演などで、「リーダーではなくシーダーになってほしい」と伝えています。「気づき」から仲間をつくり、その仲間がまた仲間をつくり、活動が広がり続けるようなシーダー(種をまく人)を増やしたいんです。例えば、高校生のときにワーコラを取材して、ワーコラの理念に共感してくれた放送部の子が、大学生になって休日子どもカレッジにボランティアで参加し、小学生の成長に寄り添ってくれています。そんなふうに、成長や変化にご一緒できたり、種をまく姿を見られたりするとうれしいです。

私自身が手本のシーダーになっているとはまだ言い難いです。ワークライフバランスを発信している身でありながら、家のことは正直わちゃわちゃです(笑)。子どもに叱られることも多々ありますし、夫が私のできない部分をカバーしてくれる人だからできているところもあります。でも、「私はこんなにできています!両立しています!という人に言われると嫌みに聞こえるけど、そうじゃない人が言うから共感してもらえるんだ」と自分を納得させています(笑)。

ーー「ワーコラマガジン〜Seeders(種をまく人々)〜」に期待することは?

さまざまな企業や人が、私たちと関わって種をまいてくれています。このマガジンでは、そんなシーダーの皆さんへのインタビューを紹介していけたらと考えています。記事を読んでワーコラに共感いただく人や、「そうか、自分たちはこうやっていけばいいんだ」と思うシーダーが増えるとうれしいです。このマガジンをきっかけに、ワーコラの思想に共感してくれる企業同士で新たなパートナーシップが生まれる可能性もあります。そのきっかけになれたら幸せです。

(取材・文/高橋陽子)

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