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生きた化石と化石化するテクノロジー

2016年、世界有数の自動車生産国であるドイツが、2030年までにガソリン車の新規登録を廃止することを発表、この流れはEU全体に浸透し、世界に影響を与えている。


1885年、ダイムラーが初めて二輪用に開発したガソリン車の歴史は、145年ほどで、死にゆくテクノロジーとして衰退をはじめることになる。

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※ゴッドリープ・ダイムラーによる世界初の4ストロークエンジン二輪車

ハーレーダビッドソンは2019年、ラスベガスの家電見本市CESで、ハーレー初の電動オートバイを市販車として発表した。
SDGsが主導しようとする持続可能な世界が模索される時流に合わせた大きな変革だ。


しかし、100年とちょっとの間に、ガソリン式のエンジンは社会に浸透するだけでなく、人間との間に文化を育んできた。
ハーレーの三拍子と呼ばれるドコドッ、ドコドッという音と振動を愛する人たちは、オートバイを鉄の馬と喩え、電化していく現行のハーレーをガン無視しながら、ビンテージに拍車をかける旧来のエンジンに美を見出している。

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1957年から1984年まで生産されたハーレーのヘッズには馴染み深いエンジン「ショベルヘッド」。
この鉄馬の心臓から使えなくなったシリンダーを引き取り、筒のサイズがちょうど良いので、鉢植えにすることを思いついた。

さて、何を植えるか。

言うまでもなく、人類の歴史は、生命全体の歴史に比べて極めて短い。
シーラカンスの様に生きた化石と呼ばれる生命は、何億年もの遺伝子の記憶を現在につないでいる。
2.5億年前から始まる中生代の三畳紀に誕生し、ジュラ紀に隆盛を極めたソテツもそのひとつだ。

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※CC:Peter Montgomery(冒頭画像共)

恐竜が絶滅するような気候変動にも生き残るには、秘策がある。
ソテツの根に蓄えられたシアノバクテリアが空気中の窒素を固定し、養分として取り込むことで、極端に乾燥していたり、土が痩せていても生き延びることができた。
そのシアノバクテリアが栄養にしているのが鉄分であり、太古の海に大量に溶けていた鉄分を取り込み、化石となって鉄鉱石を作ったのが、そもそもシアノバクテリアだと言われている。
紀元前15世紀に製鉄のテクノロジーで青銅器文明にピリオドを打ったペルシャのヒッタイト。ついに人間が鉄鉱石の使い道を思いつく。

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※30億年以上かけてシアノバクテリアが石灰質の塊「ストロマトライト」を形成する(パース、オーストラリア)。

「鉄で蘇る」と書くソテツ(蘇鉄)にとって鉄との関係はサバイブする上で極めて重要だ。ちなみに成長は極めて遅く、途方もなく長い種の歴史を味わえと言わんばかりである。僕が植えた小さな小さな苗はここまでくるのに鹿児島の職人さんが2年もかけているのだ。

こうして、生きた化石と、死に絶えるテクノロジーの遺骸を、一つの鉢植えに閉じ込め、共生関係を作った。

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この小さな装置を日常空間におき、たまに途方もない時空を感じながら、テクノロジーの儚さをしみじみと味わっている。

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