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いくらひっくり返っても

昔に隕石が落ちたとかで街には周期的にひっくり返る現象が起きた。本当はそれだけで原因ではないと言われているらしいが、住んでいる身としてはなんだっていい。

「本日は重力水たまりの振動が臨界点を迎えようとしています。反転には注意しましょう」

天気予報のついでにそんなことが言われているけれど、生まれてからこの街の外に出たことがないせいで、これが日常になっている。テレビごしに普通の学校を見たことがあるけれど、黒板に向かい合わなければいけない点が一緒なら、何が違うって言うんだろう。

「現在も目下調査中ではありますが、町の外にお住まいの方はくれぐれも落ちがづきにならないようにしてください」

重力難民だとか、時空のカナリアだなんて呼ばれているけど、そんなのどうだっていい。この生活がぼくの当たり前で、この町がぼくをここまで成長させたのだから。それに、どれだけさかさまになったって、全部がひっくり返るわけじゃないだろう。

「おはよう」

身振り手振りと口の動きから数秒遅れて声が聞こえたけれど、誰が行っているかさえ分かればいいんだ。布に染みた水分が熱で蒸気になる音と、やる気のなさそうな低い声。この声がねじ曲がってしまわない限り、ぼくのこの心がどれだけ宙ぶらりんになってもいい。さすがにこのクリーニング店がどっか向こうへ飛ばされてしまうことがあれば、ぼくだって考えはするけれど。


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