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ヨレた襟元

紙切れに夢を描くことは簡単だけど、布切れに夢は描けなかった。時間が経てばよれて、絵を描こうものなら大抵が汚れのようになる。それだというのに、醤油やら葡萄やら油やらが跳ねたときには、もうかつてのように愛せない。

だからといって、スーツで服を買いに行きたかないんだな、ぼくは。仕事ばっかりで生きてきたツケになるんだけど、外に出かける服すらなくなった。
せめて、通販の仕方くらい教わればよかったな。なあ、ぷかぷか。お前を買ったときの服も、もう黒ずんでヨレヨレだ。ちゃっきりしたスーツならあるが、どうしたものかな。

「草花やペンキでシャツを染めたら?芸術家みたいで素敵じゃない」
「パリパリになりやしないかな?」
「さあね。少なくとも、エラ呼吸をしているやつに聞くことじゃないかもね」
「そうかもなあ」

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