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ノイズキャンセリングイヤホンを買うことで自分と向き合った日記

普段使いしていたワイヤレスイヤホンが、ある日突然右耳の充電だけが30分で切れてしまうというゴッホ仕様になってしまったので、やむを得ず買い替えることにした。

最初はいつものように、1年に1度のペースで壊しては買いなおす逆SDGs戦法に従って、適当な安ワイヤレスイヤホンに替えようと思った。
が、ここ数年ノイズキャンセリングイヤホンが「もっと早く買えばよかった」とか「世界が変わった」だのと、異口同音に使い古されたフレーズで持て囃されているのを思い出して、なんとはなしに調べてみる。
すると、安いものだと8,000円位の投資でAir Podsと遜色ないノイズキャンセリングを備えたイヤホンをゲット出来るということで買ってみることにした。もちろん、Air Podsよりかは音質に劣るのだろうが、元より私には深海魚よりかは少し優れているだろう程度の音声識別能力しか備わっていないので、耳からうどんを出せないというデメリットを除けば一切問題はない。

翌々日、宅配から荷物を受け取って足早に設定を済ませ、実際に耳に突っ込んでみると、なるほど確かに「世界が変わった」もとい「世界を変えられた」とでも形容したくなるほどの性能だ。自分の外から発せられる音という音にデバフが掛けられ、今まで聞こえていた換気扇の音も、セラミックヒーターの駆動音も全てかき消すので、今までこんなにノイズが多い世界で聴覚を使っていたのかと気付かされるのである。
さらに、外で行われている住宅の建築工事や車両の走行音も、自賠責目当てなのか道路で遊んでいる子どもたちの声も、完全とは言わないまでも相殺してくれている。このことだけでもQOLバク上がりなのに、さらに音楽まで聞けるというのだから、ここ数年で一番で己の常識を変えてくれた買い物と言っても過言ではない。二番目は点鼻薬。


だが、一方で副作用が無い薬が存在しないように、使っているうちに気づくデメリットは存在する

1つ目は宅配便の来訪に気づかない点だ。応じるかどうかは別として、普段打率9割を誇る玄関察知能力は6割程度まで下がったような気がする。

しかし、幸いにも購入したイヤホンには、一度外部の音声を機械内部に取り込んだ上で私の耳目に響かせるという、通称中抜きシステムが備わっているので、来訪が分かっているのであれば、その時間帯だけそちらを使えば良い。
万が一、中抜きシステムが無くとも、インターホンにガムテープでメガホンを取り付ければ良いのだから些細な問題である。

2つ目は、周りの車両などの走行音に気づかなくなる点である。
もしも、自分の後方を大型トラクターが走っているのに、それに気づくことなく車道を斜行したら跳ね飛ばされてしまうだろう。
もしくは、路地を曲がろうと際に、曲がった先から来ている10式戦車に気づくことなく曲がったら、国防を担うべき人々に自国民をミンチにするという苦行を与えてしまうことだろう。

ただ、これも聴覚以外の感覚を研ぎ澄まし、風の動きを読んでさえしまえばリスクは軽減できるので対処不可能な問題ではないだろう。

重要なのは3つ目の問題、それはノイズキャンセリング機能という名の、自らの意思で外部の音を制限するというプロセスを通じて「自らの独善性と向き合わなければならない」という点である。
言い換えるのであれば、ノイズキャンセリングの「ノイズ」とは何であるかということだ。
ここで想定される解の一つに、ノイズとは「今現在自らが必要としない、或いは不快とすら感じる音」が考えられる。さらにはこの仮定から、ノイズキャンセリングはそれを知覚することを拒む行為であるとも言えるだろう。

だが、己にとってのノイズが他者にとってのノイズとは限らないことは言うまでもない。
慣れ親しんだ路線で流れる次駅のアナウンスは、多くの人にとって不要であり、ノイズと感じる人も居るだろうが、初めて乗車する人にとっては貴重な情報源である。3ケタ番号の県道を走る大型車両が鳴り響かせる走行音は近隣の人に取ってはノイズだが、道をゆく歩行者にとっては自らに危険を知らせてくれる音となる。災害の予兆を知らせる音などは分かりやすく万人にとってのメリットとなる音であるが、もしかしたらノイズだと判断されてしまうやもしれない。

このように他者には必要な音という情報がある一方で、同じ情報をノイズであると判断する自分がいる。ノイズキャンセリング機能はそのことを自然にかつ、強く伝えてくる。
別に音だけに当てはまることではない。視覚で得る文字やイラスト、嗅覚で得る香水の匂い、味覚で得るゲテモノの味、触覚で得る快感とも苦痛とも形容し難い感覚、その全てに当てはまるのではないだろうか。


「自分の推しが他人の地雷」

そんな、100年後のことわざ辞書に記載されてそうな文言が全てであるように思えてならない。人類の知性が生み出したノイズキャンセリングという機能を通じて、己と他者の違いと誰にでも潜むエゴイズムを大いなる存在が伝えようと試みているのかもしれない。


そんな下らねぇことを思いつつ、近所のいずれ居住する人には関係がない工事音と、少なくとも親にとっては可愛いであろう子供たちの奇声を遮るためにも、私は今日ノイズキャンセリングイヤホンを使い続ける。だって正しくともうるさいものはうるさいから。

あと、スパッツのポケットにスマホを入れて歩行すると接続がちょくちょく切れるのはマジの不満です。スマホのせいかイヤホンのせいなのか、分からないから苦情も入れられないな。




フタコブラクダのコブを同意の上で上下左右計13個にした後に、黄色いおべべを無理やり着せる活動がメインです。最近の悩みは鳥取県の県境を超えられないこと。