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若きスリッパへの追悼

買って2ヶ月もしない内にそこそこ良いスリッパが壊れてしまった。
厳密に言えば、1ヶ月ほど前には既に底が剥がれたのを接着剤でくっ付けて自重で固定する持久戦へと追い込まれていたので、実際にフルスペックで履けたのはひと月程度となる。


これが100均の安スリッパであれば、靴底が剥がれた段階で、掃いてもとい履いて捨てることもやぶさかではない。

だが、よりよい履物をと求めた結果、およそ2000円もの出費を行った。この値段は「何か作るかもな しれないしな〜」と思いつつ、何も作りやしないAdobeの1月あたりの契約金のおよそ3分の2に匹敵すると言われている。だからこそ少し無理してでも使う必要があるのだ。

そんなことを思いながら酷使し続けてきたが、今日夕方ごろになり底が剥がれて滑って転びかけるインシデントが発生した。よって、私自身への医療費というリスクを鑑みた上、もはや彼を楽にさせる時が来てしまった。


引退へと至った主な原因は私の歩き方が悪かったからであると分かっている。次点で洗濯機に雑に放り込んだからか。

何せスニーカーを買う度に踵からすり減っていき、購入半年後には不恰好なadidasを履いているのだから間違いない。靴に蹄鉄とか打てないのかというのは、私が流行りに乗ってウマ娘を見た時の第一感想であった。

もし履いていたスニーカーがエアマックスであったら、何月で詰め込まれた空気が流出するのか自分でも気になるくらいだし、むしろ流出したら危ない元素でも詰め込んでくれたならば歩き方も改善するのであろう。


さて、無機物たるスリッパへの八つ当たりでも書こうとは思ったが、前述の文章からしてどう考えても有機物たる私が悪いことは自明である。よってここは、購入ひと月で故障した、いやさせられたスリッパの視点に立って、彼たちへの追悼文を書くことによって、今回の一件を反省したい

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平均的なスリッパより優れた君たちは、産まれたその時からメーカーあるいは販路倉庫で人類の脚部を支えるという大業へと挑むに際し、さまざまな思いを抱いていたことでしょう。
その思いが覚悟であったのか、緊張か、文字通り重圧であったかは私には知る余地もありません。
しかし、周囲からの君への期待は値段という市場がもたらした究極の客観性が証明しています。

そして、近所のスーパーで私の手へと渡った君たちは、その当日から私への期待に応えてくれました。
試着ができないのにも関わらず、フィットする履き心地や土踏まず付近の形状により、履き手にあえて負荷をかけて日常の歩行でダイエット効果をもたらす仕様などを主として、細かい点は書き尽くせない程です。

しかし、1ヶ月前に異変は起こりました。左担当の下半身が剥がれたあの日の衝撃は忘れようがありません。
その後、程なくして相方の下半身も剥がれ、ここ2週間は私の懸命の手術にも関わらず、洗濯ネット越しの洗濯機にすら抵抗出来なくなってしまいました。

大きな期待を抱き、スリッパとしてのルーキーシーズンを活躍しようと励んだ君たちを正しく進むべき道へと導くことができず、今日にこのような結果となってしまったことに対して深い哀悼の意を示します。

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追悼文を書いた上、導かれた今後の方針としては、ドラッグストアの店先にあるカゴに雑に放り込まれるようなクロックスのパチモンを常備しておくのが正解だろう。丈夫かつ追悼文を書くほどの思い入れもないようなスリッパを使えばいいのだ。

フタコブラクダのコブを同意の上で上下左右計13個にした後に、黄色いおべべを無理やり着せる活動がメインです。最近の悩みは鳥取県の県境を超えられないこと。