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木箱記者の韓国事件簿 第24回 鍾路界隈の大型書店

 この週末に鍾閣駅を訪れたら地下に新しい大型書店がオープンしていた。もともとここにはバンディ&ルーニーズという大型書店があったのだが、それが9月に閉店し今回新たに「鍾路書籍」がオープンしたのだ。「鍾路書籍」の名前は昔のソウルを知る身には懐かしい。鍾路書籍は韓国の大型書店の草分けで、かつては鍾路の待ち合わせ場所の定番だった。鍾閣駅10番出口に近く立地はいいのだが、店の前には地下鉄の換気口があるため歩道は狭く、待ち合わせに最適な場所かは少々疑問ではあったのだが。店内1階には案内デスクがあったと記憶しているが、その前もいつも待ち合わせの人であふれていた。地下鉄と直結しているわけではないので雨の日にここで待ち合わせをするのは難儀だった思い出がある。鍾路書籍は私が初めてソウルを訪れた1989年から長く愛用してきたが、2002年6月に倒産し姿を消してしまった。

 ソウルの大型書店で代表的なのは1981年オープンの教保文庫だ。鍾路書籍はビルの複数のフロアを使っていたが、教保文庫は地下1階のワンフロアを使った広大なスペースがあり、あか抜けないイメージの鍾路書籍に対し、教保文庫は洗練されたスタイリッシュなイメージがあった。いまでこそ光化門駅と直結しアクセスも便利だが、駅ができたのは1996年で、それ以前はソウルで書店に行く時は鍾閣駅前で便利な鍾路書籍を愛用していた。

 教保文庫に次いで1986年に誕生した大型書店は新村にある新村文庫だ。鍾路界隈からは離れているが、1996年に留学のため新村の下宿に住んでいたことから個人的にはなじみ深い。それほど大きな店ではなく、品揃えも多くはなかったが、近くにある弘益文庫と並び学生の街である新村を代表する書店だった。残念ながら新村文庫は2006年に閉店してしまい、跡地はビリヤード場を経て現在は飲食店になっているようだ。近くの弘益文庫は数年前に再開発のため撤去されるという話があったが、長年にわたる街のシンボルでもあり、撤去反対の声もあり現在も健在だ。

 新村文庫に続き1987年に乙支路のビルの地下1階にオープンしたのが乙支書籍だ。それほど広い店ではなかったが、駅に直結していて便利だった。2002年にブックスリブロ乙支店としてリニューアルオープンし、晩年は漫画の品揃えが豊富で愛用していたのだが、残念ながらこちらも数年前に姿を消してしまった。

 80年代からの大型書店ブームの最後発は1992年オープンの永豊文庫だ。鍾閣駅と直結しており、地下2フロアを使い、鍾路書籍よりも店内が明るくきれいなためすっかりお気に入りとなり、いつしか鍾路書籍よりも永豊文庫を利用する頻度の方が高くなっていった。

 鍾路書籍、教保文庫、永豊文庫の鍾路ビッグスリーのうち2002年に鍾路書籍が倒産し2強体制が定着していたが、そんな中で2005年に鍾路タワー地下にオープンしたのが冒頭に出てきたバンディ&ルーニーズで、鍾路の大型書店戦争はまた三つ巴に戻った。しかしこの書店は実はあまり印象に残っていない。個人的に活字離れが進んでしまい、書店に行くことがめっきり減ってしまったからだ。大型書店にはどこもCDショップがあり、CDを購入するために書店に行くこともあったが、このころにはCDを買うこともなくなっていた。これは私だけでなく、社会的な流れなのだろう。デジタル化が進んだ現在、紙の書籍を扱う町の小さな書店は存亡の危機にあり、大型書店とて安泰とは言えない状況だ。そんな中でかつての名店が復活する(経営主体は異なる)のは明るいニュースだが、どれだけ健闘できるだろうか。旧鍾路書籍より店の前が広く、地下のため雨の心配がないので待ち合わせの場所としては悪くないのだが。

初出:The Daily Korea News 2016年12月26日号 note掲載に当たり加筆・修正しました。

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