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木箱記者の韓国事件簿 第33回 空港からのタクシーが不正?

 タクシーのトラブルは枚挙にいとまがない。乗るたびに疑心暗鬼になる。何年か前に仁川空港からタクシーに乗った。空港からのタクシーはトラブルに遭いやすいので用心するに越したことはない。タクシーが走り始めてふと気がついてメーターを見ると、3秒ごとに100ウォンずつ上がっている。この上がり方は尋常ではない。運転手にひとこと言わねばなるまい。ただいきなりけんか腰で話すのは得策ではない。穏やかに「運転手さん、このメーター回るの速すぎない?」と話しかけてみた。振り返った運転手は、「すみません」とでも言うのかと思ったら、「なんだと? メーターに細工してるとでも言うのか? オレはそんなまねはしてないぞ!」と怒り出してしまった。これは困った展開だ。メーターは確かに3秒ごとに100ウォンずつ上がっているのだ。しかし運転手の勢いに圧倒され、腑に落ちないながら「はぁ、そうですか…」と引き下がった。

 実はメーターが3秒ごとに100ウォンという猛烈なスピードで上がるのには訳があった。空港を出てしばらくは車の通りが少ないせいもあり、タクシーは時速160キロの猛スピードで飛ばしていたのだ。タクシー料金は142メートルごとに100ウォン上がる。時速160キロだと142メートルはだいたい3秒で走れる。このため猛烈な勢いでメーターが回っていたのだ。高速道路を抜け市街地に入るとメーターの挙動に不審な点はなくなり、ごく普通の進み具合となった。

 これはまずいことになった。疑心暗鬼になるあまりに不正をしていない運転手を不正扱いしてしまったのだ。運転手とはその後一言も口を利いていない。自宅前に近づいた。メーターの表示は4万7千ウォン。相場通りの料金だ。やはりメーターに不正はなかったのだ。

 「運転手さん、先ほどは失礼しました。私が誤解したようです。申し訳ありません」。料金を支払いながら謝罪した。運転手は「謝ってくれたらからいいけどね、何も言わずに降りたら怒鳴りつけてやるところだよ」と言いながらさらに話し続けた。「あんたたちはタクシー運転手だと見下してるかもしれないが、オレもプライドを持ってやってるんだ。不正なことをするドライバーがいることも知ってる。でもそれは一部でほとんどのみんなはまじめにやってるんだ。まじめにやって不正扱いされたんじゃたまらないよ…」。この後運転手からの説教は15分に及んだ。言ってることはすべて運転手が正しい。余計な文句を付けたのはこちらなので黙ってうなずくくらいしかできない。最後にお詫びの気持ちとして1万ウォンをチップに差し上げどうにか丸く収まった。1万ウォンのチップは授業料と思えば安いものか。

 ただひとつ言わせてもらえば、そもそも疑心暗鬼に陥るような韓国のタクシーが悪いのだ。だれもがまじめな運転手でぼったくりなどの不正もないなら最初からメーター不正を疑ったりはしなかった。それとこの時は東南アジア某国からの帰りで、その某国でタクシーにさんざんぼったくられたので特に用心深くなっていたことも災いした。ただ最初から「お前不正してるだろう!」とけんか腰にならず穏やかに指摘したのはいい判断だった。不正もしてないのに不正だと決めつけて怒鳴りつけていたなら運転手に殴られても仕方がなかっただろう。この一件以来、タクシーに文句を付ける際には確実に相手側に非があることを確認してからするようにしている。ただ不正タクシーが多いのは事実だ。まじめな運転手のためにも、不正タクシーが根絶するよう当局の対応強化を望みたい。

初出:The Daily Korea News 2017年3月13日号 note掲載に当たり加筆・修正しました。

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