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木箱記者の韓国事件簿 第25回 初日の出

 韓国に来て何度か初日の出を見たことがある。2000年から2001年にかけての年越しは光化門のカウントダウンイベントに行き、その後南山タワーで21世紀最初の日の出を撮影した。これは当時勤めていた会社の企画によるものだったが、寒い中を3時間も震えながら場所取りをして日の出を撮影した思い出がある。

 南山タワー(現Nソウルタワー)はソウルの初日の出の名所として知られる。地方では東海岸の正東津が有名だ。2002年の大晦日、正東津行きの列車のチケットを入手した。正東津駅は海のすぐそばにありドラマや映画の舞台としてもよく登場する。ここで初日の出を拝むというパッケージ商品があり、知人がそのチケットを入手したのだが、急に都合が悪くなったとのことで、出発6時間前になり譲ってくれたのだ。

 ありがたくチケットを受け取り、清涼里駅を午後11時に出発するムグンファ号に乗り込んだ。指定席はすべて売り切れており、通路にもたくさんの人が立ち結構な混雑具合だ。大晦日の夜行列車はプラチナチケットのようで、チケットをくれた知人には大感謝だ。列車が出発して1時間ほどで日付が変わり、車内は携帯電話で家族や友達に新年のあいさつをする人の声でしばし賑わうが、そのうち立っていた客も通路に座り込んだり寝転んだりで眠りに就いたのか静かになっていった。

 正東津に着いたのは午前5時45分。列車は2つ先の江陵が終点だが、ほとんどの客がここで降りた。小さな駅の中は大混雑している。駅舎と反対側の通路を出るとすぐそこは海に面した砂浜で、すでに多くの人が集まり始めている。当日の日の出時刻は7時39分とのことで2時間近く寒い中で待たなくてはならない。気温は氷点下2度だったので冬場としてはまだ暖かい方だが、すぐそこは日本海の荒波で、風も吹いているので体感気温はもっと低い。駅前側には温かいものを売る露店も出ていたが、砂浜側に露店は出ていなかった。

 7時を過ぎると空が徐々に明るくなり始め、この間にも列車は続々と到着し人波もさらに増えてきた。上空にはテレビ局のヘリが飛び回り、だんだん気分も盛り上がってくる。日の出の時刻である7時39分になり太陽が見えてくるとどこからともなく拍手が起き、あちこちで記念撮影のシャッター音が聞こえた。10分ほどで太陽はその姿をすべて現した。天気予報では曇りの予報だったので心配していたが晴れてくれたのは幸いだった。7時間近くも列車に揺られて初日の出が見られなかったのでは浮かばれない。

 初日の出を見られた満足したが、このあとが結構大変だった。帰りの列車は江陵発なので江陵に移動しようと思ったが、江陵方面行きのバスも大混雑でいつ乗れるかわからないありさま。列車は1時間半に1本程度しかないが、これに乗るのが無難な選択だ。待ち時間に食事でもしておこうかと思ったが正東津駅周辺はほとんどなにもないところで、数軒の飲食店はどこも大行列ができている。そのうちの1軒に入ってみたが店内は大混雑で到底食事ができる雰囲気ではない。列車で江陵まで移動したが、江陵駅周辺も繁華街とは離れているようでお店自体が少ない。繁華街まで行ってみたが人通りも少なく、元日のためかやっている飲食店もない。どうにかファストフード店を見つけて事なきを得たが、危うく食事をしそびれるところだった。帰りの列車は江陵発午後2時。清涼里に着いた時には午後9時を回っていた。寒くひもじい思いはしたものの、印象に残る初日の出詣でだった。機会があれば再訪したいが、片道7時間の列車の旅は少々しんどい。平昌五輪に向け年内に江陵方面まで高速鉄道がつながればもう少し行きやすくなるだろう。来年の初日の出詣での候補にしておこう。

初出:The Daily Korea News 2017年1月9日号 note掲載に当たり加筆・修正しました。

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