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木箱記者の韓国事件簿 第30回 中朝国境で味わう北朝鮮の雰囲気

 金正男氏の暗殺で北朝鮮という国の不気味さが改めてクローズアップされている。しかし不気味でよくわからない国だからなのか、以前から北朝鮮にも関心を持っている。とはいえ簡単に行ける国ではないのも確かで、せいぜい統一展望台から北朝鮮側を眺めるくらいだ。その北朝鮮に最も接近できたのが先日から当欄で触れている中国・延吉に行った時だ。

 延吉市からバスで1時間ほどの図們市は北朝鮮と国境を接している。北朝鮮マニアとしては行かずにはおれないところだ。延吉や図們が属する延辺朝鮮族自治州はその名の通り朝鮮族が多く、韓国語ができればあまり言葉には困らないのもありがたいところだ。

 延吉からの乗り合いバスで図們に着いて少し歩くと図們口岸(出入国検査場)と図們国境大橋がある。中朝両国の人は通常この橋を行き来している。この橋の中間に国境線が書かれている。外国人は橋を渡ることはできないが、この国境線ぎりぎりまで行くことができる。橋の入口で料金を払い国境線を目指すと、後から中国の軍人がついてくる。よからぬことをしないよう監視しているのだろうか。150メートルほど歩くとそこが国境線だ。監視されているので線を越えないようギリギリのところに立った。せっかくなので記念写真を撮ろうと監視の軍人にカメラを渡そうとしたが、首を振る。撮ってはいけないということではなく、監視以外の仕事はしないということだった。仕方なく一緒に来た友人と交代で1人ずつ撮影した。私自身は越境していないが、影は完全に越境していた。

 図們口岸には展望台がある。上ってみると橋の向こうには北朝鮮が見える。橋を越えた正面の建物には金日成主席の肖像画が掲げられているのが見えた。韓国の統一展望台から見る景色よりも生々しい現実の北朝鮮だった。中朝間の行き来は簡単なのだろうか。周辺には北朝鮮側から来たのであろう子どもたちが観光客にお金をねだっていた。これが統一展望台周辺と決定的に違う場面だろう。臨津江を越えてくる物乞いはいない。北朝鮮の人と直接接したのはこれが初めてだった。

 橋の周辺にはみやげ物の屋台があった。北朝鮮マニアには垂涎のアイテムの金日成・金正日バッジなどが売られている。北朝鮮から流出したものという説明だが、数が多すぎるし美品ばかりなので中国国内で大量生産されたレプリカなのだろう。1個30元で買い求めた。金父子の2人が並んで描かれたバッジもあり、店主によると平壌の高級幹部のバッジでこの辺りには2~3個しか出回っていないという。「1個50元でどうだ?」と持ちかけたが鼻で笑われ「80ドルだ」という。これがあれば平壌でも優先的に配給を受けられるなどメリットがあるそうだが、配給を受けずともたらふく食べられる境遇だし平壌で暮らす予定もないので魅力は感じず購入は断念した。このほか北朝鮮の切手や紙幣などが定番のおみやげで、いくつか買い求めた。

 延吉は延辺朝鮮族自治州の中心都市で、街には中国語とともにハングルがあふれている。あくまで中国の街並みであり北朝鮮風の街並みではないが、お店で売っているものには北朝鮮を感じさせるものが多くあった。書店に入ってみると片隅にひっそりと北朝鮮の書籍のコーナーがあった。紙の質も悪い薄っぺらな本がいくつかあるだけだったが、力道山の伝記など数冊を買い求めた。ただ中国の書籍はバーコードがついていてレジですぐ会計できるのに、北朝鮮の書籍にはバーコードがなく、レジの係員は処理にてこずっていた。おそらく購入する人はほとんどいないのだろう。このほか別のCDショップでは北朝鮮歌謡のVCDやビデオテープを見かけたので購入した。結局金日成バッジをはじめ帰りに韓国の空港で見つかると厄介なことになりそうなものばかりを買ってきたことになる。ただ購入したビデオは日本や韓国と方式が異なるPAL方式のため見ることができなかったのは残念なところだった。

 アジア各地の北朝鮮レストランも北朝鮮の雰囲気を味わえるが、延吉・図們もかなり濃い北朝鮮の雰囲気を楽しめた。延吉を訪れたのは2000年とかなり前のことで、現在では状況も変わっていることだろう。いずれ再訪したいと思っているがいまだその機会はない。

初出:The Daily Korea News 2017年2月20日号 note掲載に当たり加筆・修正しました。

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