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木箱記者の韓国事件簿 第18回 歌手と爆弾酒の飲み比べ

 2002年のサッカー・ワールドカップ日韓共催を控え、韓国側で結成された韓日共同応援団に参加していたことがある。韓国人の知り合いから紹介されて参加するようになったと記憶している。著名人も名を連ねており、歌手のキム・フングクや、俳優のキム・ボソンらと会う機会があった。応援団には歌手キム・ジョンミンの父親が関係していたことからキム・ジョンミンも顔を出していた。応援団ではいくつかのイベントに招かれたが、ソウル警察庁と共同の街頭パレードというものもあった。ワールドカップ参加国の国旗を掲げた警察のサイドカーで光化門前からワールドカップスタジアムまでを走るというもので、ハーレーダビッドソンのサイドカーに乗り込んで沿道の人たちに手を振りながらワールドカップスタジアムまで走った。この日の様子は共同通信がニュースとして配信しており、取材を受けた私のコメントもしっかりと名前入りで掲載されていた。また、NHKの取材も受け、念のため日本の両親に夜のニュースをチェックするよう伝えたところ、ちゃんと名前入りでインタビューシーンが放映されたようだ。サッカーにはそれほどの興味はなかったが、韓国側の共同応援団に日本人が少なかったこともあり、いろいろなイベントに呼ばれたのは貴重な体験となった。

 その中で特に印象的だったのは歌手のキム・フングクとの出会いだった。彼は芸能界きってのサッカー好きらしい。2001年末ごろに応援団関連のイベントの打ち上げで同じテーブルに座ったことがきっかけで盛り上がり、なぜか爆弾酒の飲み比べを彼とすることになってしまった。爆弾酒の日韓戦というわけだ。爆弾酒は普通ウイスキーをビールで割るが、打ち上げの会場となった店にウイスキーはなく、焼酎をビールで割る爆弾酒となった。彼は焼酎グラスに焼酎を注ぎ、空のビールグラスの中に焼酎グラスを入れた。そして栓を抜いたビール瓶の注ぎ口を指でふさいで4~5回振り、瓶を逆さにすると指をずらしビールグラスめがけて勢いよくビールを噴射し始めた。この作り方は、単にビールを注いだグラスに焼酎グラスを落とすよりも見た目に派手で見ていて楽しいし、勢いよく噴射することで焼酎とビールが適度に撹拌されるというメリットもある。

 その爆弾酒飲み比べだが、勝負は互角だった。お互いふらふらになりながら、4~5杯ずつくらい飲んだところでなんとなく引き分けというムードになった。キム・フングクには飲みっぷりがすっかり気に入られたようで、楽しいひとときを過ごした。

 共同応援団のイベントはその後も何回か続き、2002年の年明けからすぐにまたイベントがあった。昼ごろのイベントで、午後3時過ぎには終わりそのまま打ち上げに突入した。今回もキム・フングクと同じテーブルに座ると、彼は「またお前か!」と言いながらも楽しそうに爆弾酒を作ってくれた。彼は午後7時からラジオの生放送があるという。それなのに爆弾酒を飲んでいても大丈夫なのか心配になったのだが、この日も楽しく一緒に爆弾酒を飲んだ。キム・フングクは「お前はなかなか面白い奴だ。ラジオの冒頭ではいつも時事ネタを話すが、きょうは共同応援団とお前の話をすることに決めた」と上機嫌でラジオ局に向かっていった。その日のラジオで本当に私のことが話されたのかは確認していない。残ったメンバーで2次会、3次会と進みラジオを聞くことができなかったのだ。

 その後も何度かイベントでキム・フングクと顔を合わせたが、ワールドカップが終わると共同応援団の活動も終わってしまい、その後彼と会う機会はなくなってしまった。ただ彼直伝の爆弾酒の作り方はいまでも時々機会があれば仲間内で披露している。

初出:The Daily Korea News 2016年11月14日号 note掲載に当たり加筆・修正しました。

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