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光画小説集

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記事一覧

光画小説集 - 蜘蛛の糸



 するとその地獄の底に、陀多と云う男が一人、ほかの罪人と一しょに蠢うごめいている姿が、御眼に止まりました。この陀多と云う男は、人を殺したり家に火をつけたり、いろいろ悪事を働いた大泥坊でございますが、それでもたった一つ、善い事を致した覚えがございます。と申しますのは、ある時この男が深い林の中を通りますと、小さな蜘蛛が一匹、路ばたを這って行くのが見えました。そこで陀多は早速足を挙げて、踏み殺そうと

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光画小説集 - 蜜柑



しかし汽車はその時分には、もう安々と隧道を辷べりぬけて、枯草の山と山との間に挟はさまれた、或貧しい町はずれの踏切りに通りかかっていた。踏切りの近くには、いずれも見すぼらしい藁屋根や瓦屋根がごみごみと狭苦しく建てこんで、踏切り番が振るのであろう、唯一旒のうす白い旗がものうげに暮色を揺すっていた。やっと隧道を出たと思う――その時その蕭索とした踏切りの柵の向うに、私は頬の赤い三人の男の子が、目白押し

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光画小説集 - 月夜のでんしんばしら/宮沢賢治

光画小説集 - 月夜のでんしんばしら/宮沢賢治



「とつぜん、右手のシグナルばしらが、がたんとからだをゆすぶって、上の白い横木を斜に下の方へぶらさげました。これはべつだん不思議でもなんでもありません。
 つまりシグナルがさがったというだけのことです。一晩に十四回もあることなのです。

 ところがそのつぎが大へんです。
 さっきから線路の左がわで、ぐゎあん、ぐゎあんとうなっていたでんしんばしらの列が大威張で一ぺんに北のほうへ歩きだしました。

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