光画小説集 - 月夜のでんしんばしら/宮沢賢治
「とつぜん、右手のシグナルばしらが、がたんとからだをゆすぶって、上の白い横木を斜に下の方へぶらさげました。これはべつだん不思議でもなんでもありません。
つまりシグナルがさがったというだけのことです。一晩に十四回もあることなのです。
ところがそのつぎが大へんです。
さっきから線路の左がわで、ぐゎあん、ぐゎあんとうなっていたでんしんばしらの列が大威張で一ぺんに北のほうへ歩きだしました。みんな六つの瀬戸もののエボレットを飾り、てっぺんにはりがねの槍をつけた亜鉛のしゃっぽをかぶって、片脚でひょいひょいやって行くのです。そしていかにも恭一をばかにしたように、じろじろ横めでみて通りすぎます。
うなりもだんだん高くなって、いまはいかにも昔ふうの立派な軍歌に変ってしまいました。」
(宮沢賢治 『月夜のでんしんばしら』より)
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