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難解なチャイナドレス-2046-

品川プリンスシネマで映画。
見損ねていた「2046」。

公開からひと月が経てば、劇場はがら空きだった。

「ハウルの動く城」は、二回先の上映まで満席。
こちらもかなり観てみたい。

プリンスシネマはポップコーンの匂いなどしない。
やはりヴァージンシネマの匂いは策略だと確信する。

予告編は、「オペラ座の怪人」に惹かれた。
オープニングのCGが素晴らしい。
有名なテーマ曲とともに、古ぼけて蜘蛛の巣のかかったオペラ座の観客席が、みるみるうちに鮮やかな色とまばゆさを取り戻していく描写は、期待感を煽った。

ところで、「2046」。
想像していたのとは、少し違った。

一言で言うなら、難解。

相変わらず音楽は素晴らしい。

登場人物それぞれに与えられたテーマ曲が、どれもこれも国境、ジャンル、テイストを越えて印象的に用いられる様は、ウォン・カーウァイ作品の無国籍感なり、現実を超越したおとぎ話感を高揚させる。

主人公トニー・レオンには、ディーン・マーティンの「Sway」。
チャン・ツィイーには、コニー・フランシスの「Siboney」。
フェイ・ウォンには、オペラ「ノルマ」の「清らかな女神よ(Casta Diva)」。

「どんな映画だった?」と人に訊かれても、説明のしようがない。
木村拓哉の出演が、この映画を器以上にメジャーに押し上げているが、映画の興行のよるべはやはり「面白かった」の口コミによるロングランだろう。
そう思えば、公開1ヶ月のがら空きもうなづける。

観るべきでないとも言えないし、楽しめなかったかと言えばそうでもない。
この作品は、一定の印象をもって、私の心に残るだろう。
ただ、「面白かった?」と訊かれたら、私には「難解だった」としか答えようがない。

切なさが残った。
まぜこぜのイメージが、混沌に濁った。

チャイナドレスの美しい女性が多く登場する。
特に、チャン・ツィイーの美しさは、痛々しさとともに、心縛られる。

記憶を残して、人の心は漂う。
なぜいつも、愛はタイミングを失するのか。
なぜそれでも、見返りのないものに、想いを投下するのか。

学生時代、ある男性とこんなやりとりをした。
「記憶は残酷だと思う。忘れたいと思えば思うほど、忘れられない。朽ち果てるべきものこそ朽ち果てない」
「案外、記憶はきちんと癒えていくものだよ。人間には自然浄化力があるんだ。生きていくために、人はちゃんと忘れるよ」
「そうかしら?」
「そうだよ。消えないと思った記憶も、ちゃんと薄らいでいってる。そうでなくては、僕は生きられない」
彼がそう言うのなら、そうなのかもしれない、と思った。
私などには想像の及ばない、深い傷を負っている人だったから。

それでも、私にも、突然鼓動を速めるような記憶は、ある。
それもいつか癒えるのだろうか。

難解である。

しかしまた、その難解さこそが、愛ではなかろうか。
人ではなかろうか。

そんなふうに自己肯定の言葉を観客に探させるほど、ウォン・カーウァイが偉大になりえたということだろう。

2046(2004年・香港/中/仏/伊/日)
監督:ウォン・カーウァイ
出演:トニー・レオン、木村拓哉、フェイ・ウォン他

■2004/11/24投稿の記事
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