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事件はリアルタイムで進行している-24-

3月の私はダイエットブームなのだが、2月の私はなにげに「24」ブームだった。
いまさらながらなのだが、3rdシーズンまでほぼ3週間で一気に見たのだ。

各話の冒頭「事件はリアルタイムで進行している」という台詞は、このドラマの代名詞のように語られる実に気の利いたフレーズだが、実際にはこの言葉はテレビの吹替え版にしか登場しない。

英語ではこう言っている。
"Following takes place between 9:00pm and 10:00pm"
このフレーズも発音のリズムがよくて耳につきやすい。
けれどけれど、「事件はリアルタイムで進行している」というコピーは、完全リアルタイムドラマという作品のユニークな特徴を説明し、かつ、「早く次回を」と心はやる観客の期待を一層盛り上げるのに、これ以上ないほどふさわしいと思う。

まさに「24」で睡眠時間を極限まで削る日々に誘導された多くの日本人は、「事件はリアルタイムで進行している」という点火スイッチにヤラレたに違いない。
原語で一度も登場しない言葉を前面に出してプロモーションしていたフジテレビの確信が覗けるようだ。

翻って、24時間生放送テレビ通販もリアルタイムで進行している。

文字通り24時間休むことなく生放送でテレビ番組は放送され、次から次へと商品が登場する。
その数、週に700アイテム、その半数が新登場の商品である。

商品がテレビで紹介され始めると、コールセンターでは電話が鳴り響く。
夜中であろうが、明け方であろうが、おかまいなしに電話は鳴る。
時間の感覚を失ったような明るい声でオペレーターは、次々とそれに応答していく。

テレビの画面の左上の方の表示は、電話回線の混み具合や在庫の量に連動して変化する。

「ただいま注文が集中しています」
「残りわずかです」

出演中のキャスト(商品プレゼンター)もまた、その表示に応じて「お早めににご注文ください」と連呼する。
そうやって、今にもなくなりますよと視聴者を煽る。

実際、この表示は自動制御されているものなので、誇張でもなんでもない。
「残りわずか」のときは確かに在庫はあともう少しの状態なのだ。
そして、ついに完売すれば、突然テレビ画面上に「SOLD OUT!」と大きく表示されて、キャストは「あー、売切れてしまいましたあ!」と言って、さっさと次の商品の紹介に移ってしまう。

本当の本当に「生」なんである。

現に「SOLD OUT!」の真っ赤な表示が出る瞬間というのは、なんとも言えない高揚感を誘う。
ちょっといいなと目にとまり、でもどうしようかしらと考えているうちに、唐突にその瞬間はやってくるのだ。
目の前で、自分が欲しいと思うものが売切れてしまう衝撃は、これは真剣に見なくちゃいけないと、視聴者のテレビを観る姿勢を変えてしまう効果がある。
人気商品はあっと言う間に売り切れる。
どんな商品がどの時間に登場するかはあらかじめ分からないので、それは一期一会かもしれない。

全国にライバルがいる。
皆が狙っている。
誰がそれをゲットするか。
テレビの前で受話器を構える。

上級者になれば、番組ガイドという名の簡単な番組表(番組タイトルのみで内容詳細はなし)と週ごとの目玉商品の予告写真(説明や価格表示はなし)を見ただけで、何月何日の何時にどの商品が売られるかを読めるようになってくるらしい。
この高等テクニックには、反射神経ではなく推理力が要求される。

これはオンラインゲームにも似た、買い物バトルゲームなのだ。
ザッツ、エンタテイメント。

あるいは、生放送だけに、みのもんたばりに「生電話」というのもある。

注文の電話がそのまま番組出演者につながって、自分がなぜその商品を買おうと思ったかなんてことを、お客様自ら宣伝してくれたりする。
以前に同じ商品を買ったことのある人などは、使い心地について語り、誰よりも説得力のあるコメントを披露する。
時には、お客様の身の上話が始まって、番組とは関係なしに泣けたり笑えたりするようだ。

これもエンタテイメント。

それはまさに、「事件はリアルタイムで進行している」からに他ならない楽しさだ。

入社したばかりのオリエンテーションとして、コールセンターや物流センターなど会社の施設を見学にいく機会があった。
こういったオペレーション部門の機動的な動きや、最新鋭の管理システムには驚嘆するし、わくわくとする。
一日数万件の電話や、それとほぼ同量の商品発送数。
それを見事にさばいていくのは、一つ一つに関して言えば人間であるからまた面白い。

250のオペレーター回線とほぼ同数のIVR(自動応答システム)回線を備えた日本最大級のコールセンターは、もちろん24時間稼動だが、注文が最も集中する時間帯には、この回線が全て埋まってまだ足りない。
この3月に新しい施設での業務がスタートしたばかりで、内装もシステムもピカピカ。
隅田川沿いのビル、高い天井と広大なフロア一面を敷き詰めるオペレーターブース。
部屋の端から見渡すと、なかなか壮観な眺めだ。

ブースの列の中央には、一段高い場所に円を描くようにデスクが配置されたコントロールブースがある。

それがさながら、「24」において常に物語の中心的舞台となるCTU(連邦テロ対策ユニット)のコントロールオフィスのよう。
このコールセンターは、入出管理を静脈認証というこれまたエッジなシステムで行っていて、そんなところも「24」っぽい。

事件はリアルタイムで進行している。
番組も、視聴者も、コールセンターもすべて、リアルタイムに動いている。


24 Twenty Four(2001年・米)
出演:キーファ・サザーランド、デニス・ヘイスバート、エリシャ・カスバート

■2006/3/16投稿の記事
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