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おもてなしとゆすらうめ-ALWAYS 三丁目の夕日-

日曜は、ブログがきっかけで知り合って結婚された、ブロガ-ご夫婦の新居を訪問。
かなりこの日を楽しみにしていた。

なぜなら、奥様のブログからうかがい知る新婚生活が、それはそれは洗練とあたたかさに溢れていて、お得意のお料理だとか、スマートなインテリアだとか、そしてノロケまくったご主人の鼻の下だとか、期待が高まる要素にあふれていたからだ。
ご自身もかなりハードなお仕事をしていらっしゃるのに、家事にも暮らし作りにも、もちろん女性としての自分磨きにも余念がない彼女は、いつもいつも頭が下がるほど素敵な女性。
たぶん、彼女に会えば、どんな女性も襟を正したくなるだろう。

そんな女性を奥さんにしてしまったラッキーなご主人は、「こんなになんでもやってもらっちゃっていると、自分がだめんなっちゃうよねえ」と言いながら、幸せそうにごろんと寝そべる。
家のことはからきしだけれど、いつでもどっしり強く優しく男らしいご主人と、こまやかな気配りと愛情いっぱいの美しくたおやかな奥さんと、私はそのバランスを感慨深く眺める。

奥さんが褒め上手だからだな、というふうに。

居心地のよい部屋は、あたたかい色をしている。
半ば陽が落ちたライトグレーの空間に、淡いオレンジの灯りが水草みたく漂う。
そのオレンジをぎゅっと濃縮したような色のジュースに冷えたシャンパンが注がれて、ミモザの幸せな花が咲く。

リーフ型の白いチャイナの下には、デッシュマット代わりにバナナの葉が敷かれ、背の低いテーブルの上には優雅なリラックスが演出されている。
中をくりぬいたミディトマトに収められたリエット、ホワイトアスパラガスの生ハム巻、チーズといった、ワイン好きが嬉しくなりそうなオードブル。

中央に置かれたそのオードブルの皿に、さりげなく小さな赤い実の鈴なりの房が飾られていて、私は思わず、ゆすらうめを思い出した。
「思い出した」というのは、それがゆすらうめではないということは分かっていたからだ。
たぶん、それは赤スグリだと思うのだが、実の大きさや赤い色がよく似ている。
食べてみると、味も似ていた。

ただ、ゆすらうめはもう少し黒ずんだ濃い赤をしているし、枝というか茎の弾性が少し違うし、実はこんな感じにはつかない。
だから、違う。

とはいえ、私が照らし合わせている記憶は四半世紀くらい前のものだ。
ほんの幼いとき、ひいおばあちゃんと納屋のある土地の庭で食べた、ゆすらうめ。
「ゆすらうめ」という名前はひいおばあちゃんが教えてくれて、しわくちゃの手で実を摘み与えてくれた。

それは、すっぱい味がする。
調子に乗って食べ過ぎると舌にアクがついて渋い感じがするので、ほどほどで止めないといけないが、樹から直接摘んで口に入れるという行為のちょっとした冒険心が楽しくて、なかなかやめられない。
そのうち、ひいおばあちゃんがいないときにも、ひとりでそこへ行って、こっそりゆすらうめを食べた。
それは、私の行動範囲がごくごく狭くて、どんなときも家族によって守られていて、納屋の庭のゆすらうめを採るというだけに冒険心を感じられた頃のことだ。

奥様が、「こうやると揺れるから、ゆすらうめっていう感じね」と赤い実の房を耳のあたりで揺らす。
この人は本当に、居るだけで場を特別なものにしてくれる。

私はまだ観ていなかったのだけれど、おふたりが最近観て、いたく気に入ったという「ALWAYS 三丁目の夕日」を薦められ、翌日、さっそくDVDを借りてみた。
舞台である昭和33年は、私たちが生まれる17年前の時代だが、それなのにどこか記憶を辿ればたどり着きそうな感覚がする。

今よりずっと定義の広い「家族」のぬくもりに包まれて、少年は果てしない未来を夢見る。
東京タワーは、空高くに伸びていく。

目に見えて世の中が変化していっているという実感の中、戦争を生き延びた人々の夢と人情と笑いの日々。
そこに見る、少し前の日本の朗らかさやあたたかさは、私たちがもう失くしたものなのか、それとも今も残っているのか、思わず日常に目を凝らす。
50年経っても100年経っても、夕日は綺麗に決まっていると、50年近く前の人々が信じたように、今日の夕日は綺麗だろうか。

後日、ゆすらうめの花言葉は「郷愁」だと知る。

心地のいい時間、どこか懐かしさまで蘇る時間。
おもてなしの心づかいからいただいた、土地と時への郷愁を大事に抱いて帰ろう。

ALWAYS 三丁目の夕日(2005年・日)
監督:山崎貴
出演:吉岡秀隆、堤真一、小雪 他

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10年前に書いた、ゆすらうめの詩(再掲)

  「あの実を採って」
  「どれを?」
  「あの赤いの」
  「どれどれ」
  「あそこのね 一番高いの」
  「あれかあ 空に一番 近いのね」
  どんどん遠くのものが欲しくなる
  どんどん美しいものが欲しくなる
  どんどん強いものや どんどん優しいもの
  とにかくどんどん欲張りになって 君はどんどん手を伸ばす
  一つ一つ手に入れて いつかもう届かないというところまで
  きっと至ってしまうだろう
  そのとき君は不思議に思うだろう
  一つ前までは手にできたものが その次にはもう自分のものではなくて
  思い通りにならないことを
  そして君は泣いてみたりもし いろんなものを壊してみたりもし
  誰かを傷つけたりもし
  でも 結局 どうにもならないと
  知って やっと だだっ子をやめる
  そうして君は大人と呼ばれ もう腕さえ伸ばさない
  そうすれば赤い実は永遠に 君のものではなく
  また他の誰かのものか それとも

  限りなく高い高い空の所有
                            -空の所有-

■2006/7/29投稿の記事
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