見出し画像

バカンスとミステリー-スイミング・プール-

11月がまもなく終わり、本格的な冬はもうそこまで来ている。
ここ数日は暖かい日が続いている気がするけれど、それも時間の問題。
否応なく、あのぴりっとした冷気の季節がやってくる。

薄曇った空も決して嫌いではないけれど、やはり冬の休暇には太陽が恋しいと思ってしまう。
その上、光をめいっぱい受け止める海の青など想像すれば、いとも簡単に気持ちは南国へ飛び立つのだ。

そう、冬休みの計画を立てなくちゃいけない。

思いついたのはかれこれ1ヶ月以上前で、それから本屋を見つけては立ち寄って、リゾートの本ばかり眺めている。
どのページにも、真っ青な空と海と、時が止まったかのような空気が満ちていて、この中のどこでもいいから、ぬくとい風にそよがれつつ、うたた寝してみたい衝動に駆られる。

旅に出て、本を読む。
そして、文章を書く。

目を閉じれば、イメージが湧き起こり、物語が爪弾かれる。

映画「スイミング・プール」は、イギリスの女流作家がフランスの静かな別荘で過ごす、あるバカンスについて描いている。
中年の彼女は、出版社の社長である恋人の勧めで、彼が持つプールのある別荘でひとり新作を執筆することにする。

誰もいないはずだった館に、恋人の一人娘がやってきて、一時期の共同生活を送ることになる。
若い娘は、罪なほどに美しく、また奔放で危なかしい。

毎晩のように違う男を部屋に連れ込み、あっけらかんとその艶色を誇示する。
作家は、娘が気に入らない。

娘も作家を気に入らない。

そのくせなぜか、互いのことが気になってならない。
二人が持つ、埋めきらぬ対照的な魅惑。

憧憬か。
嫉妬か。
愛か。
嫌悪か。

そして、水揺らぐプールサイドに横たわる、ミステリーの影。

気だるいほど暑く、眩むほど明るい、バカンスの一部始終を、余すことなく空気満ち満たせた作品。
少し怖くて、とても不思議な気分が染みてくる。

たとえば、そんな休日を。

実際には年末年始の時期は不確定要素が多く、予定が立ちきらないまま、まごまごとしているうちにチケットもホテルも売り切れが出始めてしまった。

アミダくじでもやって適当に行き先を決めて、そしてとにかく荷物をまとめてしまおう。
こんがらがった糸を、ほどくというよりそのまま水にふやかして、「さら」の気持ちに着替えたい。


スイミング・プール Swimming Pool(2003年・仏)
監督:フランソワ・オゾン
出演:シャーロット・ランプリング、リュディヴィーヌ・サニエ、チャールズ・ダンス他

■2005/11/29投稿の記事
昔のブログの記事を少しずつお引越ししていきます。

サポートをいただけるご厚意に感謝します!