四つ葉のクローバーさがして-ハチミツとクローバー-
高校生のとき、父も同席した、ある集まりの場でちょっとした思い出話を披露して、その拍子に涙がぽろぽろとこぼれてしまったことがある。
みんなの前で、ほとんど無意識に、瞬間的に、涙があふれてとめられなくなった。
その帰り道、父は車の中で私にこう言った。
「お前は感受性が強すぎるから、心配なんや」
そのとき私は、父は私が人からヘンな目で見られることを恐れているのかと思った。
もしそうだとしたら心配することはない、そう思った。
でも、そのとき父が心配したことの意味が、今なら、よく分かる。
昼にある映画のことを思い出し、調べたら六本木の映画館で今週金曜までの公開だと分かった。
木曜も金曜も都合が悪いので、残されたチャンスは今日しかない。
しかも、水曜はレディスデーで1000円。
私は、早々に仕事を終えて日比谷線に向かった。
席数50ほどの小さな映写室で観る「ハチミツとクローバー」。
深夜にアニメで放送していた頃から気になっていた作品で、実写になることに多少の懐疑心もあったけれど、櫻井翔、蒼井優、加瀬亮、堺雅人と、主要キャラクターを「私の今気になる人」がずらっと占めていたので観ないわけにいかないと思えた。
「全員が片想い」の美大生たちの青春。
切なく切なく切なく切ない、恋する気持ち。
向き合わないベクトル。
日常の吐息全てを包んでしまう愛しい光と、押し潰されそうな恐ろしい暗闇。
本来は、過ぎ去った時代なのかもしれない。
私の歳は、登場人物たちよりも十ほど上だし、主人公の一人は「10年後がどうなっているかなんて想像がつかない」と言っている。
でも、それは過ぎ去った甘酸っぱさではないという感触が、私をきゅうとつかんだ。
大人になりたい。
私はまだ、大人になれていない。
大人になれば、また違うものが見えるのだろうと、10年前から大して違わないものしか見えない私は、そう思う。
人はいつでも、無いものねだりだからね。
学校からの帰り道は、長い坂道だった。
自転車に乗ったまま坂を上りきったら、きっと何かを越えられる。
きっと新しい眺めが見える。
そんな無意味な願掛けをして、ペダルをぐいぐいと力こめて踏んだ。
想いが叶わないことよりも苦しいことは、その想いを持ち続けることを自らやめてしまわなければならないことだ。
だから、若者たちはメビウスの輪から抜け出せない。
若いからいいんだ、と誰かが言う。
10年前の1年も、10年後の1年も、同じ1年のはずなのに。
クローバーを探しにいきたいと思った。
見つかるかどうか分からないけれど、見つかるまで、日が暮れるまで。
飽きるまで、疲れ果てるまで。
私も主人公とおんなじで、四つ葉のクローバーを生まれてこの方、見たことがない。
だけど不思議なことに、四つ葉のクローバーの存在を一度も疑ったことがない。
見たこともないのに、なぜだろう。
ハチミツとクローバー(2006年・日)
監督:高田雅彦
出演:櫻井翔、蒼井優、伊勢谷友介
■2007/1/26投稿の記事
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