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クッキングセラピーーシェフと素顔とおいしい時間ー

理由はさておき、ご機嫌ナナメの水曜日。
晩の早いうちに会社を後にし、今日は絶対うちで食事をしようと帰りがけにスーパーに寄った。

日曜日にぼたん鍋をして残った白菜とこんにゃくを使って、今晩の献立を組み立てる。
事前に愛用の味の素のホームページで、レシピを食材検索して、白菜の使い道は「白菜と春雨の中華風炒め煮」と決める。
春雨はストックがあるから、足りない食材は筍ときくらげ、干ししいたけと、牛ひき肉。

この季節は筍がおいしい。
野菜売り場に山ほど並ぶ。
今日使い切れなかったら、明日筑前煮にしようか、パスタにするのも美味しそう。

そんなことを考えながら、お買い物。
目当ての食材を買い物カゴに入れていく。

野菜売場を過ぎ、乾物売場に寄り、そしてようやく精肉売場。
ひき肉は、なかでも一番奥にある。

「あ、ない」

午後8時近い精肉売場には、ひき肉はわずか1パックしか残っていなかった。
それも牛豚の合挽き、量はたっぷり500g。

私が「白菜と春雨の中華風炒め煮」を作るために必要なひき肉の量はわずか50g。
牛を合挽きに妥協したとしても、量がどうにも多すぎる。

ひき肉は傷みが早いから、できるだけ短期間で使い切りたい。
ポーションは小さめで買う、一人暮らしの鉄則。

そこで私は大きく方針転換した。
肉の入らない「白菜と春雨の中華風炒め煮」がどうしても美味しそうに思えなかったのだ。
だから、このレシピは中止。もしくは延期。

今日は、白菜を使って煮物をして、それからこんにゃくで豚汁にしよう。
それだけじゃきっと味が寂しいから、鮭を焼こう。
ふっくらとした甘塩の鮭。
それから生野菜も食べたい。
食べきってしまえるように、そのまま器に盛れる大根サラダを買おう。

踵を返して、もう一度野菜売場から始めた。

白菜を煮るというと、真っ先に思いつくのが油揚げと白菜のあっさりとした煮浸し。
実家でおばあちゃんが週に一回は作る。
その味を思い出しながら、まったくの勘で味つけをするが、なかなかどうして美味しくできた。
そうそう、おばあちゃんの味、こんな味。

豚汁は普通バラ肉を使うが、私はそんなカロリーの高い肉は使わない。
確かに味は落ちてしまうのだが、もも肉のスライスで代用する。
小さめに切って肉のかたさをごまかそう。

料理は楽しい。

自分がそのとき直感的に食べたいと思う食材を、できるだけカロリーや栄養素の配分なんかを考えながら、もちろん味のバランスも考えながら、一食分の献立として完成させる。
この考案の作業、買い物、調理そのもの、全部とっても楽しいと思う。

調理時間も重要で、私は1時間以上かかるような献立は絶対選ばない。
休日のご馳走は別として、平日には大体30分前後で一汁三菜を揃わせる。
(ご飯は一食分ずつ小分けにして冷凍保存している)

自分が作った料理を、「おいしー」と言いながら食べる幸せ。
カロリーや栄養の計算をきちんとしているからこそ、安心してお腹いっぱい食べられる幸せ。

そしてまた、自炊生活の楽しさのひとつは「献立しりとり」だ。
前日に余った食材を翌日か翌々日には使い切る、献立しりとり。

今日は白菜とこんにゃくを消費したけれど、新たに買ったにんじんと豚もも肉、油揚げとえのきだけを明日以降着実に消費する術を考えなければならない。
これは無限の組み合わせで目の前に立ちはだかる、n面体ルービックキューブみたいなもので、本来ゲーム好きの私には、たまらないエンタテイメントなのだ。

これをすればもう、ナナメの機嫌もまっすぐになる。(いいとも風)

映画なら、「シェフと素顔と、おいしい時間」。
ジャン・レノとジュリエット・ビノシュが絡むラブコメディ。

かつての有名シェフと今をときめく有名メイクアップアーティストが、搭乗するはずの飛行機がストで遅れて足止めをくらい、空港のそばのホテルで相部屋を強いられる。
気が強くてぶつかり合うふたり。

女は厚いメイクを落とす。
男は女のために、ホテルの厨房に忍び込んで一皿の料理を作る。

怒りっぽい心がほころんで、ナナメの機嫌がまっすぐになる。

料理は作る方にとっても、食べるほうにとっても、それは大いなる癒したりうる。
体の構成要素を入れ替えるように、おいしい幸せを頬ばればいい。


シェフと素顔と、おいしい時間 Jet Lag(2002年・仏/英)
監督:ダニエル・トンプソン
出演:ジャン・レノ、ジュリエット・ビノシュ、セルジ・ロペス他

■2006/5/11投稿の記事
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