ミクロの決死圏

 また古い映画で申し訳ありません。50代前後の人なら必ず何度もテレビで観ているはずの「ミクロの決死圏」です。この映画まず邦題が素晴らしいです。原題は「Fantastic Voyage」という平凡なもの。それを「ミクロ」の「決死圏」という何とも血湧き肉踊るタイトルに変換せしめた当時の宣伝担当の人にまず乾杯を捧げたいと思います。ちょっと懐古主義に陥ってしまいますが、昔の洋画はいい邦題がいっぱいあったような気がします。今は直訳か、原題をそのままカタカナにするかがほとんどで、たまにオリジナルで邦題をつけても原題とかけ離れているから不評といったことになったりします。そういうセンスがある人が今いないということなのかも知れませんが、これも時代なんでしょうか。

 話がそれました。

 有名でしょうが一応あらすじを紹介しますと、亡命した科学者が敵国のスパイに襲われ、脳内出血の重体になります。それを治療するには、科学者自身の研究による人体&医療機器縮小技術によりミクロ化し、体内に入り込むしかないことになります。ただしまだ研究は完成されておらず、ミクロ化できるのは60分だけなのです。こうして人類初の制限時間付き体内アドベンチャーが開始されます。ところどころ強引ですが素晴らしいプロットです。面白くならないはずがありません。これを稀代の職人監督リチャード・フライシャーさんが手堅く演出していきます。耳の近くを通るときに、音を立てないようにするサスペンスや、中途で実はこの中にスパイがいる、と分かったときのハラハラ感は見事です。ただの物珍しいだけの映画に終わっていません。

 幻想的な体内の美術や(どうもダリが担当したという話は都市伝説らしい)、役者たちの見事な演技も絶賛に値するのですが、この映画で一番評価すべきはやはりラクエル・ウェルチさんでしょう。ラクエル・ウェルチと言えば、数々のセクシーな映画で肢体をさらしてきた言わば肉体派女優ですが、実は彼女の魅力が一番出ているのはこの映画だと思います。ピッチリとしたウェットスーツみたいなのを着ていて、体の線ははっきりと分かり、これ見よがしな映画よりよほど挑発的です。極めつけはウィルスと間違われ、体内の抗体に襲われるシーンです。艇内に引き上げられ、体中にこびりついた抗体をむさくるしい男ども(これポイント)に、よってたかって剥がされるくだりなど、まだ幼い私にもどこかいかがわしさを感じさせる名場面となっていました。これがやりたいために彼女をキャスティングしたのね、と勘ぐってしまいます。

 物語はスパイうんぬん問題を軽くクリアして、治療に成功。果たしてどこから脱出するかという難問を、またしてもナイスアイデアで解決。この辺りの展開はSF的でいいですね。ラストの治療班が元に戻る描写も、味気ない撮り方が逆にリアルに見えて驚きです。

 後年「インナースペース」というジョー・ダンテ監督のコメディタッチのミクロ映画がありましたが、これはこれで詰め込みすぎ具合が楽しい映画でしたが、なぜこうも体内の描写がつまらないのかな、とガッカリした思いがありました。これに懲りたのか(私の知る限りでは)体内を舞台にした映画は他にないようです。もっとこのジャンルが発達してミクロ映画がまた流行ってくれたら嬉しいんですけどねえ……。

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