トリック・ジャック

 私が中学生か高校生くらいの頃、つまり35年ほど前のことだと思いますが、深夜に抜群に面白いサスペンス映画が放送されたのです。それがこの「トリック・ジャック」という作品です。「恐るべき少女誘拐」というタイトルで放送された事もあるようです。そのタイトルの通りこれは誘拐をテーマにした映画です。映画といっても実はアメリカではテレビ放送用に作られたものでした。俗に言うテレフィーチャーというやつです。

 主演はロバート・カルプ、彼が売れない役者を演じます。その妻がアンジー・ディキンソン。ある日彼のところに一本の電話がかかってきます。お前のところの娘を誘拐した、金を用意しろ、と身代金要求の電話です。しかし彼らには子供はいません。電話が混線したか何かで間違えてかかってきたのです。それに気付いたカルプは適当に話を合わせます。そして実際に娘を誘拐された家庭もあるはずです。そこには犯人は電話をしていない。つまりその家庭に対しては自分が犯人のように振る舞い、電話をかけ、犯人に対しては被害者の振りをして話を合わせる。そのように間に入って身代金をせしめようという計画を立てたのです。こうして売れない役者の一世一代の大芝居が始まりました。

 しかしさすがに一筋縄では行きません。犯人とは関わらないようにと思っていたのに、結局取引の場に出かけるはめになり、金がないとバレ、銃で撃たれそうになり逃げ回るなど、危ない橋を渡る事になります。ハラハラドキドキの末、やっとのことで金を手に入れ、さあこれで大金持ちだというところで、もの凄い結末が待っています。二段構えのドンデン返しです。

 この映画よく出来ていて観てほしいのですが、恐らく今となっては観る手段はないと思います。あまりによく出来ているため、日本の2時間ドラマにもパクられました。ひょっとしたらそちらを観た人もいるかも知れません。しかし結末が違っていました。最後のオチの一段目だけで終わり、さらにオリジナルドンデン返しを付け加えたものでした。まあもう誰も観る事はないと思うので書いてしまいますが、最後に妻に裏切られ、住所を突き止めた犯人がやってきて主人公を撃ち殺すというものでした。これはこれで夢も希望もなくて悪くないのですが、オリジナル版はもっと余韻を残すものでした。これがソフト化される可能性はたぶん無いと思いますが、万が一のことを考えて、オリジナル版のオチは観てのお楽しみとしておきましょう。

 主演のロバート・カルプはよく刑事コロンボに出てくる人です。だからというわけではないと思うんですが、観終わった後の感覚もなんだかコロンボに似ているものがあるような気がしました。どこかの配信サービスで観られるようになるか、あるいはリメイクされてもいいと思うんですけどなかなかなりそうにないですね。私は気長に待っていますが。

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