SAFE

 「SAFE」という映画をご存知でしょうか。ジェイソン・ステイサム主演のアクション映画で同名のものがありますが、そちらではなくジュリアン・ムーア主演の何とも恐ろしい映画です。この映画の感想を今回はちょっと書いてみたいと思います。

 監督は「ベルベット・ゴールドマイン」のトッド・ヘインズさんです。1999年にミニシアターで公開され、その後「ケミカル・シンドローム」というタイトルに変えられてビデオになり、DVDは出たんだか出ていないんだか分からないのですが、そんな不当な扱いを受けるのが信じられないくらい凄い映画なのです。私は劇場で見逃したのでレンタルビデオで観ましたが、タイトルが変わっているのでしばらく気付けませんでした。

 これは現代病とも言うべき化学物質過敏症を扱った映画です。しかしそれだけにとどまらず、現代社会の病巣を本当に冷徹な視点で暴いていく衝撃作でもあります。ジュリアン扮する主人公が化学物質過敏症になるのですが、現代の医学では治しようのない病気で、それどころか病気ですらないのではという見方もされてしまう不憫な病気でして、旦那ですら気の持ちようだろくらいにしか思ってくれません。それで理解を求めて、同じような患者が集まるコミュニティに参加していくというストーリーです。

 とにかくジュリアンの演技が凄いです。常にローテンションで、運動しても汗もかきません。セックスの時も息すら乱しません。もう人間として代謝機能がおかしくなっているというのを演技で表現しています。凄いです。そして次第に世に氾濫する化学物質に反応して鼻血を出したりぶっ倒れたりするようになってしまいます。

 ここで医者にかかるのですが、ここの検査の様子が痛ましいです。病的なまでに白く細いジュリアンの腕にいくつも注射の跡があるのに、さらに血液を採り、いろいろ解析していきます。何となく「エクソシスト」でリンダ・ブレアを検査しているシーンを連想してしまいました。これは現代のリアルな恐怖を描いたホラー映画と言ってもいいので、それも狙いなのかも知れません。

 そして後半とあるコミュニティに参加して、少しは心の平安を得られたようなジュリアンですが、これは表面だけ観ていたら、監督からのメッセージを見逃してしまう映画だと思うのです。彼女は自分の病気を理解してほしいという態度を取っています。精神的なものなんじゃないの? 的な質問にも、そんなストレスはないと言っていますが、よくよく見れば旦那や子供の態度から明らかに家庭でストレスを感じていることが分かります。

 またコミュニティでの生活も根本的な解決にはなっていないのに、この映画の登場人物たちはそれに全く気付きません。作中で分かりやすく「これは間違っていますよ」と言ってはいないのですが、どこか不気味さを感じさせる演出によって、その矛盾に観客の力で気付いてほしいという作りになっています。

 何がどうと言葉では言えないのですが、本当に不気味で恐ろしい終わり方をする映画です。全く救いがないのに、主人公はそれに気付かず(あるいは気付かない振りをして)、希望があるような感じで終わります。私はこの映画を観終わって一週間くらいずっと気分が晴れませんでした。それくらい破壊力のある映画です。

 本当に後味の悪い映画ですので万人にはお薦めできないのですが、それでもこんなに不当な仕打ちと言いますか、ほとんど観られていない現状はどうかと思いますので、ぜひともソフト化されて再評価されて欲しいと思います。

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