暴走機関車

 いつも私の趣味で偏った映画ばかり紹介していますが、本日もマイフェイバリットな一本「暴走機関車」です。よく月曜ロードショーでやっていましたのでそちらをご覧になった方もいるかもしれません。黒澤明さんが原案で、ロシア出身のアンドレイ・コンチャロフスキーさんが監督の骨太アクション映画であります。

 ジョン・ボイト扮する主人公マニーは刑務所内でカリスマ的存在の囚人で、刑務所長から目の敵にされていじめられています。ついに囚人を使って殺されそうになったので、エリック・ロバーツ扮する若い囚人バックと脱獄を決行します。下水道をすべって外に出る二人。外は酷寒の雪景色です。二人は走り出した機関車に飛び乗るのですが、偶然機関士が心臓発作で転落、機関車は二人を乗せたまま暴走を始めるのでした。

 まず刑務所内の生々しい映像が凄いです。70年代の映画のようなリアルな質感で最低の環境を描いています。こんなところからは誰だって脱獄したくなります。マニーたちが脱獄すると刑務所内が騒がしくなるのですが、それを刑務所長は一人で演説して鎮めます。ここのセリフが凄いです。「まず神がいる。その次が所長、そして看守。その次が外の犬たち。その下がお前たちだ。最低のウジ虫だ」という、まあうろ覚えなのですが、ジョン・P・ライアンの名演と相まって、この映画の方向性を決定づけるような名シーンとなっています。

 そして何と言っても凄いのが、一面の雪の世界、そして有無を言わさぬ迫力で疾走する機関車です。大自然と人間が作り出した怪物、どちらに対しても人間の力など無力と言わんばかりの過酷な展開が待っています。機関車が暴走を始めて最初の衝突シーンなどは映画だと分かっているのに、うわ本当にぶつかったよ、などと驚いてしまいました。それまでのリアルな描写のせいでしょうね。

 その衝突で先頭車両がつぶれた機関車は何か本当に怪物みたいに見えて不気味です。機関車には実はもう一人乗っていて、それがレベッカ・デモーネイ扮する女性なのですが、この三人が生き延びるために何とか機関車を止めようとあがいていきます。極限状態の中で、マニーのメッキが剥がれ、彼もまた一人の人間でしかないことが分かり、彼を崇拝していたバックが寂しそうな表情をするところが印象的です。

 もうどうにも打つ手がなくなった頃、所長がヘリでこの機関車を追いかけてきます。これ物語としてははっきり言ってめちゃくちゃです。いくら二人の間に因縁があるからと言って、所長自ら追ってはきませんよ普通。しかもハシゴにぶら下がって機関車に飛び移ってくるんですよ。下手したら馬鹿映画です。でも全てのアクションが生身の人間によって行われているという(もちろんスタントマンでしょうが)、誤摩化しなしの演出のせいで、観ているうちはそんなツッコミはしていられません。この辺りのアクションはもう本当に映画史に残ると思います。全体的に命がけすぎます。

 最後のまとめ方も強引ですし、とにかく力技な映画です。私はこの映画は大好きですし、アクションも凄いし、映像や編集など、全てのクオリティが高いと思うのですが、やっぱりどこかおかしいと思ってしまいます。でもそれは悪い意味でなく、問題だらけのストーリーも含めて一種異様なテンションがこの映画を希有なものにしていると思うのです。この世界観に一番近いのは梶原一騎さんや小池一夫さんの劇画かもしれません。すみません、また漫画を引き合いに出してしまって……。

 私はいつか大きなモニターを買って、自宅にホームシアターみたいなものを作りたいという夢を持っているのですが、そこで最初に観たいのは実はこの映画であったりします。

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