ひまわり

 今現在、イタリアは新型コロナウイルスで大変なことになっていますが、多くの名画を生み出してくれた感謝とエールを込めて、イタリア映画について思いを馳せてみます。というわけで、名作中の名作「ひまわり」です。これを観たのは大学生くらいの時だったでしょうか。深夜にテレビでやっていたので録画して観ました。何というか、名作とは聞いていたのですが、本当に一部の隙もなく完璧な映画で、神々しさすら感じるほどです。もはやこのストーリーは多くのジャンルのラブストーリーの物語原型になってしまっています。

 舞台は第二次大戦後のイタリアです。戦争が終わっても夫(マルチェロ・マストロヤンニ)が帰ってこないので、政府にかけあったりしてイライラがつのる妻ソフィア・ローレン。かなりの気の強さが冒頭から伺いしれます。この情熱的な感じはイタリア女性ならではという感じです。映画はそんな埒のあかない様子と、過去の夫との楽しかった日々を回想を織り交ぜて描き、いよいよソフィアはロシアまで夫を探しにいきます。そこには半死半生だったのをロシアの女性に助けられ、記憶喪失になっていた夫の姿が…。二人はすでに結婚をしていました。ソフィアを見て夫は全てを思い出しますが……。

 こういう運命に弄ばれるような男女のドラマというのは、観ていてあざとく感じるのですが、この映画もまああざとさはあるのですが、実に心情をていねいに描き、役者の演技も文句なく素晴しいのでそれ以上の感動をもたらされてしまいます。ドラマの王道といった感じです。

 この映画は恐らく日本人は大好きだったのでしょう。いくつのドラマがこの映画に影響を受けたでしょう。ドラマだけじゃありません。少女漫画などはいまだにこういう展開を続けています(まあこの映画だけの影響じゃないでしょうが)。またこの時のソフィアのような熱演が、いまの日本でも女優のする名演の手本だとされています。いや確かに名演ですよ。でもなんでもかんでもこんなに魂を込めることはないと思います。ヴィットリオ・デ・シーカ監督はイタリアン・ネオリアリスモの巨匠ですが、こういうリアリズムこそが至上のものであるという意識が、特に日本には強いと思います(いや、ダメとは言いませんよ)。

 いろいろ言いましたが、この映画はさすがに渾身の作品だけあって、例えばソフィアが夫に別れを告げて、列車の中で一人泣き崩れてヘンリー・マンシーニの音楽が最高潮に盛り上がるところなどは分かっていても泣けます。もう泣いていいよねここまでくると、って感じで悲劇に浸ることができます。不謹慎ですが不幸である自分を確認する快感とでも言いますか、思いっきり泣くと逆に気持ちいいあれです。

 あとロシアでの妻の役をやった人が本当に美しいです。この人をぞんざいに扱っていないところが、この映画の真摯なところであり、その辺のメロドラマと一線を画しているところだと思います。これは明らかに反戦映画でもあるのですが、それを声高に叫ばないところも押し付けがましくなく、好感が持てます。とにかくていねいに、気を使って作られた見事な映画です。

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