ブラインドネス

 新型コロナウィルスのニュースも深刻化してきた今日この頃ですが、そんな中、今回はフェルナンド・メイレレス監督「ブラインドネス」を紹介したいと思います。この映画もまたとある感染症のお話なのです。私は公開時に映画館で観たのですが、土曜のお昼でお客さんが10人程度でしたでしょうか。しかし娯楽大作というわけではないので(予算はかかってそうですが)、しょうがないのかも知れません。

 お話はもう単純で、謎の感染症の発生により、人類が次々と失明していくというものです。ありがちなパニックSFかなと思えます。私もそう思いました。主演がジュリアン・ムーアさんですから、いくぶん演技的な見せ場はあるんだろうなくらいの先入観で観たのですが、結論から言うとこれはパニックSFというわけではありませんでした。

 冒頭、伊勢谷友介くん扮する日本人がいきなり失明し、病院に運ばれます。しかし原因は不明。そして彼を診察した医者、運んだ人間、乗ったタクシーの運転手、さらにその客……と、どんどん感染していき、失明した者たちは政府の施設に隔離されます。ここで失明した医者の妻であるジュリアン・ムーアが、私も発症したから夫と一緒に施設に入ります、と嘘をついて同行するのです。ちょっとこういったパニックものの主人公としては今まで見たことのない行動をします。これがこの映画のキモと言っていいでしょう。この病気の原因を探って解決しようとする人類の戦いを描く映画ではありません。それ以後は隔離施設のお話になります。そこで一人だけ目が見えるジュリアン・ムーアが、失明した者たちだけで作り出す小さな社会で、人間たちの醜さや恐ろしさを目にしていくという映画です。

 原作の小説があるらしいのですが、この着想を考えた人は頭がいい人に違いありません。そのように今の世界全体の縮図を見せるというか、失明し、対等となった不自由な者同士でも争いが起こり、それを止めることは出来ないのだということを表現できるからです。確かにそういったものは表せていますし、監督のメイレレスさんはリアルな描写に定評のある人ですから、うまいこと映像化しています。ただ私がちょっと思ったのは、なまじ描写がリアルなだけに、わざわざIFの設定を持ち出さなくとも今までもメイレレス監督は人間の本質を描いていたじゃないか、とも思ってしまいました。特に政府の非道さを描いたくだりなどは、もう絵空事ではないというか、現実の社会もキナ臭い感じになっていますので、それをまたわざわざ映画でカリカチュアされたものを見せられなくても、と思いました。でもこれはまあ私の受け取り方の問題なのでしょう。

 リアルな描写と言いましたが、それほどバイオレンスや残酷描写を直接見せるわけではありません。しかし事後の惨状を見せることによって、想像力の逞しい人にとっては直接見せるよりも恐ろしい映画となっているでしょう。私もどちらかと言うと自分で勝手にいろいろ想像してしまうタイプですので、ちょっと不快なシーンが多かったです。もう映画館を出てしまいたいと思った場面が二回ほどあります。警備員がジュリアンたちに銃を向けるところと、施設の独裁者が女性を差し出すよう要求するところです。しかし現実にこういうことが起こったらと考えるともっとカオス状態になるでしょうから、これでも映画として抑制が効いていた方だと思います。

 映画は結局ほとんどの人類が失明し、ジュリアンたちは施設を抜け出し、荒廃した町を抜けて自分の家に行きます。そこで伊勢谷くんの目がまたいきなり治るところで終わります。パニックサスペンスとして観た人は病気の原因も、ジュリアンだけが失明しない原因も分からないのでかなり拍子抜けすると思います。「だから何?」というところでしょう。この映画は「だから何?」と聞く人には向いてない映画です。だから何なのか自分であれこれいろいろ考える人向けの映画です。

 では私は堪能したかというと、まあそこそこといったところです。それなりに興味深い内容だとは思ったのですが、キモだと思ったジュリアンだけが目が見えるという構図が結局クライマックスで機能せずに終わったので、その点で拍子抜けしてしまったのです。後はかなりブラックユーモアがキツいので、私は引きつつもそこはちょっと気に入ってしまいました。盲人しかいないのに賛成の者は手を挙げてとか、盲人施設の独裁者がいきなりスティービー・ワンダーの歌を歌いだすところでは、私はかなり笑ってしまいましたが、いいのかなこれ……。

よろしければサポートお願いいたします。