サスペリア

 昨日の記事からの続きですが、私くらいの世代でイタリア映画というと70年代のオカルトものがやはりどうしても思い出されます。というわけで、以前から書こう書こうと思っていた「サスペリア」でございます。

 これは月曜ロードショーか何かで観たのが最初だったと思います。実は劇場公開時も家族で観に行ったのですが、隣り合った劇場で「エクソシスト2」と「サスペリア」がやっていて、どちらを観ようかということになって、土壇場で怖くなってどっちも嫌だと私が駄々をこねて観なかったのです。当時は幼かったので、まだホラー映画がマジで怖かったのですね。今となっては信じられない話ですが。

 この映画はダリオ・アルジェント監督の最高傑作と言い切っていいでしょう。リアリズムに慣れた今の目で見ると極彩色の照明やゴブリンの音楽に違和感を覚える人もいるかも知れません。登場人物の演技もエキセントリックすぎますし、殺人シーンが執拗で長いと感じるかもしれません。しかし、刷り込みというのでしょうか、私くらいの世代の人間にとってはホラーと言えばこういう感じの映画なのです(当時はホラーという言葉はあまり使いませんでしたが)。

 お話はジェシカ・ハーパー演じるヒロインがバレエの寄宿学校に到着するところから始まります。よりにもよって嵐の夜です。このオープニングからして異様に怖いです。何があるわけでもないんですが、いきなり音楽がやんで空港の自動ドアにカメラが寄っていったり、そのドアが開くときのカット割り、風に吹かれて髪が逆立つ描写など、神経症的演出が凄いです。

 そしてその夜いきなり殺人が起こります。このシーンのサディズム溢れる殺し方も凄いです。とにかく執拗です。アメリカのホラーなどはいくらグロい描写をしていても殺人そのものは一瞬で終わることが一般的なのですが、イタリア映画それもアルジェント監督になると、ナイフを何回も刺したり、女性が怯えたり苦しんだりする様子を延々と映したり、さらに死んでからもその死体が弄ばれたり、損壊したりという様子をじっくり描写します。これはしかし美しい女性を愛するアルジェント監督の屈折した愛情表現なのでしょうね。残酷でありながら一種の美しさを感じるのはそのせいでしょう。ここでもナイフを何度も刺され、被害者が天窓を突き破って首吊りになるまでがもの凄いテンションで描かれます。その天窓のガラスが顔に突き刺さってもう一人死ぬというおまけつきです。

 ストーリーはそのバレエ学校が実は悪魔に支配されているというか、学長が悪魔崇拝者だったか何かで、それで次々と殺人が起こるというものです。でも細かいところはあまり覚えていません。これは物語がないとか、筋が通っていないということでなく、論理的整合性をそれほど重視していないからだと思います。この映画ほど細かいところを気にしたら駄目という表現が当てはまる映画はないと思います。

 それよりとにかく個々の恐怖シーンに酔いしれる映画です。ジェシカ・ハーパーは美しいですし、ドギツい残酷描写と美少女の対比は秋田書店の少女漫画系の恐怖漫画を思わせるようです。まあ「サスペリア」という雑誌もあったくらいですから、この映画に影響を受けたんでしょうけど。友達が襲われたりしているうちに、何とか真相にたどり着き、ジェシカ自らの手で決着をつけて学校から脱出。学校は炎上するんでしたっけ。燃える窓を映しながらゴブリンの音楽が流れてエンディングだったような気がします。この音楽がまた最高にカッコいいのですが。

 何となく謎解きっぽい展開もありますが、まあそういうのは雰囲気だけで、ひたすら追いつめられる少女たちの怯えっぷりを楽しみましょう。あとラスト近くに本当に怖いシーンがあって、私などは今でもトラウマになっていて夜とかは観れませんので、皆さんも決して一人では観ないでくださいね。

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