ドランク・モンキー/酔拳

 最近、自分が映画を見始めた幼い頃の思い出に浸ることが多いのですが、子供心に強い印象を受けたスターと言えば何といってもジャッキー・チェンさんだったりします。そんなわけでジャッキー・が初めて日本で紹介された記念すべき映画「ドランク・モンキー/酔拳」のお話です。

 私の世代(40代後半)には多いと思うのですが、ブルース・リーをリアルタイムで味わえなかった悔しさというものをちょっと感じていたりします。「燃えよドラゴン」も「ドラゴンへの道」もテレビで放送されていのを観たのが最初でした。それでもテレビでやっていただけいい時代だったわけですが。

 映画館で観ることができたブルース・リー映画は確か「ブルース・リー/死亡遊戯」と「ブルース・リー/電光石火」くらいでした。そんな私のカンフー不足のために彗星のごとく現れたのがジャッキー・チェンでした。

 当時TVジョッキーという番組があって、水野晴夫さんの映画コーナーがあったのですが、ある日、そこで「酔拳」が紹介されたのです。私と兄貴二人はそのアクロバティックなカンフーアクションに熱狂して、親父にすぐ観に行こうと催促して、みんなで観に行ったと思います。

 あれは映画が一番面白かった時期かもしれないなあ……(遠い目)。懐古趣味だとは分かっているのですが、ところどころ剥がれた劇場の壁、無愛想なモギリのおばちゃん、瓶のコーラ、床にへばりついているガム、やさぐれたおっさんども(当時は映画と言えばおっさんの観るものだった)、それらが走馬灯のように思い出されます(って死ぬわけじゃないですが)。

 そして地元の商店街の広告のあとで始まる本編。オープニングが漫画です。モンキー・パンチさんのイラストです。おまけに本編で流れるのは日本人の歌っている歌…。あとで調べて分かったのですが、歌は四人囃子の「カンフージョン」。これがラストの戦いで流れて結構よかったんですけど、後にビデオで観たらなくなってて、寂しかったなあ……(また遠い目)。

 それはともかくジャッキーの話をしますと、当時の動きは今と比べると単純で遅く、コミカルさを重視していて今見ると物足りないかもしれませんが、それでも初めて観たときは、凄く感心しました。今と違ってあまりカットを割ることなく、長回しで延々と殺陣を見せるので、演者の技量はある意味昔の方が上だったのかなと思えるところもあります。とにかく当時の香港映画はお金がなかったので体を張るしかなく、それがいい方向へ出たということなのでしょう。

 この映画の成功の後、ジャッキーは、資金を手にして技術を向上させ、お金の無かった時にはやれなかったことを実現させていくわけですが、ワイヤーワークやコマ落としや、細かいカット割り、さらにはCGまで使うようになったのを見て、私はやはり一抹の寂しさを感じないではいられませんでした。

 映画というのはガマン大会ではないのですから、無意味に体を張ることはないんですが、しかし本当にやっている感というものは、ストーリーとか関係なく観ていてグッと心に迫ってくるものがありまして、技術が向上すればするほどそのグッと来るものが弱くなっているような気がするのです。簡単に言うと劇場を出てから思わず真似したくなるような気持ちです。カットを割り過ぎて何をやっているか分からなかったり、映像処理を施して人間には不可能すぎる動きをされても真似できませんからね。まあしかし、いつまでも同じことをしろということも言えませんのでしょうがないのかな。

 しかしそのジャッキーの撒いた種は確実に芽を出していて、もうベテランと言ってもいいくらいになりましたが、トニー・ジャーさんやインドネシアのイコ・ウワイスさんなど、その魂を受け継ぐ人たちがどんどん出てきていますので、今は「ジャッキーをリアルタイムで味わえなくて悔しい」と思っている人たちの心を、彼らがワクワクさせているのだなあと思うと感慨深いものがあります。なんかもうジャッキーは過去の人みたいな締めで、失礼な感じになってしまいましたね。まだまだ映画には出てくれるでしょうから、これからも楽しみにしたいと思います。

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