サイコ

 今さらですがアルフレッド・ヒッチコック監督の「サイコ」について書きますので、お暇な方はお付き合い下さい。私がこの映画を観たのは、テレビで深夜に字幕でノーカットで放送していたときだったと思います。本当はもっと以前に、なんとかロードショーとかの枠で観ていたかもしれませんが、まだ幼くて覚えていない頃だったでしょう。ちゃんと観たのは結構後になってからだと思います。「サイコ2」の公開直前だったかも知れません。あ、ネタバレ全開で書くのでお気をつけ下さい。「猿の惑星」並みにみんなストーリーなんか知ってるだろ的な映画ですが、それでもやはりまだ観ていない方はいると思いますので、一応。

 その私にしても、この映画を観るのが遅すぎたというのが一種の不幸だったと思います。というのももはやサスペンス映画のスタンダード扱いされていたのでネタバレされまくりでした。一見主人公かと思われた女性が惨殺されるショックも味わえませんでしたし、そのシャワーシーンそのものも、どこかで紹介されたのを見ていたようで、全く新味も怖さも感じませんでした。さらに言うなら母親が犯人と思いきや、実はノーマン・ベイツの扮装だったりというメインのトリックまで何かで聞いて知っていました。だからストーリー的には楽しめなかったんですけど、不思議とサスペンス感はなんかありましたね。それを演出力というのかもしれませんが。

 というわけで、全体的によくできた映画、というか技法的にはほぼ完璧な映画っぽいんですが、最後の最後まで怖さを味わえずに終わってしまうところでしたが、事件が解決した後のエピローグみたいなもので私はちょっと、いやかなり怖いなと思ったのです。

 主人公が捕まった後、少々蛇足的な、といっても当時としては犯人の精神を理解させるには必要だったであろう説明を精神分析医が述べまして、ああこれで終わりだな、めでたしめでたしと安心したところで、獄中だったか病院だったかでノーマン・ベイツは母の人格になったまま、おそらく永遠に外に出ること無く、穏やかに残りの生涯を過すことが暗示されるんです。この不気味な余韻を残すラストの恐ろしさにちょっと不意打ちをくらってしまいました。トリックがどうというより、このラストの不気味さで語られるべき映画だろと思ったんですが、そんなことされていたら私にとって本当に何も新味のない映画になってしまっていたので、そうならなくてむしろありがたかったのですが。

 精神異常者をサイコと呼んで殺人をさせて観客に恐怖を味わせるという、よく考えたらかなり差別的でヤバイ内容ではあるんですけど、何度も言いますがヒッチコックさんはどんなに下衆なことや変態的なことを描いても、ただセンセーショナルな興味だけでなく結果的に格調高い映画のようになっているのが凄いと思います。役者さんの使い方なんでしょうかね。本当に稀有な作風で今もってマニアがたくさんいるのもわかります。


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