ラスト・ラン/殺しの一匹狼

 こないだ感想を書きました「ミクロの決死圏」でも取り上げたリチャード・フライシャー監督ですが、私はこの人の映画を全部観たということではないのですが、かなり好きな作品が多く、また幼少期にテレビで観たものも多いため、かなり人格形成に影響していると思うのです。前述の「ミクロの決死圏」や「ソイレント・グリーン」など、「トラ・トラ・トラ!」に至っては8ミリソフトまで家にあって、映写して観ていたりしました。

 そんなわけでかなり身近に感じていたフライシャー作品ですが、レンタルビデオ全盛期になってテレビでは観られなかったものも観られるようになりました。この「ラスト・ラン/殺しの一匹狼」も、レンタルビデオ屋さんで借りて観ました。DVDも出ましたので、ひょっとしたら今レンタル屋さんにあるかもしれませんね。ちょっと分かりませんが。さてこの作品、渋すぎます。一応アクション映画という分類になるでしょうが、ドンパチやカーアクションを見せたりというより、一人の男の生き様を見せる作品になっています。しかし充分に娯楽映画になっています。この辺りが職人監督フライシャーと言われる所以でしょう。

 犯罪者の逃走を助けるドライバー、運び屋役がジョージ・C・スコットです。だからサブタイトルから連想されるような殺し屋ではありません。彼が引退前の最後の仕事をすることになります。訳ありの犯罪者の若者を無事逃亡させるという簡単な仕事。だが仲間のはずの組織が彼を消そうとし、成り行きで彼を助けてしまったスコットは、警察からも犯罪組織からも追われながら、彼とともに逃亡を続けます。

 舞台は欧州でしょうか、正確な国は忘れましたが、山の中の道を、BGMもかけず、ひたすらチェイスするというドキュメンタリータッチとも言うべきカーアクションが続きます。実に地味ですが、なんだか凄い迫力があります。銃撃戦もB級アクションのノリと、あっさり敵が射殺されるリアルさが同居しています。

 スコット演ずる主人公は余計なことは喋らず、プロの仕事に徹します。この映画全体からそうしたプロフェッショナルの香りがするのはそのせいでしょうか。追っ手は行く先々へと先回りしており、ついに主人公は昔の女を頼り、港から船で二人を(言い忘れましたが若者と恋人のカップルです)逃がすことにします。もうネタバレ全開で書きます。書かねばこの素晴しさは伝えきれません。

 カップルに車を預け、主人公は罠の待つ女の所へ。たちまち始まる銃撃戦。主人公は撃ち合いながら港へと逃げます。一方カップルは主人公を待たず車で港へ爆走。警察に追われ、途中で事故って車を捨てます。港に着いたカップルは聞いていた船に乗ります。そこへ主人公も到着。残っていた追っ手との撃ち合いの末、二人を逃がします。しかし、主人公も撃たれてしまいます(スコットの撃たれた演技が最高。必見です)。主人公は薄れる意識の中、港を出る船を見ます。同じ頃、警察は乗り捨てられた車を見つけます。まだエンジンがかかっていたので、警官はキーを抜いてエンジンを止めます。同時に主人公が息を引き取ります。車のエンジンが止まるのと、主人公が死ぬのをカットバックでシンクロさせる演出なのです。これが凄まじく痺れます。こうして逃し屋の最後の仕事が終わったということで、映画は幕を下ろします。

 こうして文章で書いてもやっぱり良さがあまり伝わっていないことに気付きました。これはもうぜひ観て下さい(結末まで書いといて何ですが)。隠れた名作とはこのことだと思います。ジェリー・ゴールドスミスの音楽も泣けますし。そう言えば逃し屋の映画といえば最近ライアン・ゴズリングさん主演で「ドライヴ」というのもありましたが、あれが好きな人もひょっとしたら気にいるかもしれせん。なんか根底に流れている雰囲気みたいなものが似ていてオススメです。

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