クリスティーン

 また懐かしい80年代のホラーですが、スティーヴン・キング原作の「クリスティーン」です。監督はあのジョン・カーペンターさんで、私はこの人に「ファイアスターター」(「炎の少女チャーリー」)を監督して欲しかったのですが、こっちの監督になりました。

 キース・ゴードン演ずる青年が、ポンコツの58年型プリマス・フューリーを見つけて、それをレストアして溺愛するのですが、実はその車は呪われた車だった……、てな感じのストーリーです。車が勝手に動いて人を殺していくという、誰でも考えるようなアイデアですが、さすがにキング原作だけあって、青春時代にありがちな一コマにそのアイデアを放り込んで、オリジナリティを出しています。

 面白いのはクリスティーンと名付けたその車に感化されて、持ち主のキースもどんどん人格が変わって行くところです。最初はいじめられっ子みたいな感じだったんですが、だんだんと性格が変わってくるのです。恋人もできます。この構造って「トランスフォーマー」じゃん! と今気付きました。いや関係ないですね。と言うかやっぱり違いました。取り憑かれたのか何なのか分かりませんが、主人公はだんだんと攻撃的な性格に、顔つきもワルっぽくなっていきます。

 で、その恋人にクリスティーンが嫉妬して、妙な現象が起こり出し、彼女も怖くなってくるわけです。クリスティーンが完全に女性の人格として描かれています。ここまで書いて気付いたのですが、結局クリスティーンが何であるかというのは、この映画では全く謎なんですよね。原作では前の持ち主の霊が憑いたみたいな解釈ができるのですが、この映画では工場で完成した途端に勝手に動いて工員を傷つけています。生まれつき意志を持った車のようです。じゃあそれから何があってポンコツになって主人公の目に止まるのを待っていたのかというと、それが全く分からない訳です。あれ何かあったかな? 忘れていたとしたらすみません。とにかく観ている間は気にならないので、細かいことを言うのは無しにしましょう。

 この映画の見せ場は何と言ってもクリスティーンが自己修復する時のSFXでしょう。久しぶりにSFXなんて書きました。主人公が調子に乗って来たのにムカついた不良たちは、レストアされてピカピカになったクリスティーンをよってたかってボコボコに壊してしまいます。しかしクリスティーンはその凹み傷ついたボディをガレージでひっそりと自己修復していくのです。逆回転で撮影されたのでしょうが、それだけでなく内部から車のボディを変形させねばならぬので、この修復シーンはかなり手間がかかったのではないかと思います。

 そしてクリスティーンはまず自分を傷つけた奴らを血祭りにあげていきます。この辺はホラーというよりもスカッとする度合いが高いので、あまり怖くありません。アクション性も高く安心して観ていられる、と言うと変ですけどカッコいい感じです。

 不良の一人がやられるシーンで私が気に入ったのが、狭い路地で行き止まりに追い詰められ、そこへクリスティーンが、自らのボディを破壊しながらもその路地の中に無理矢理入り込んで殺してしまうところです。普通だったら車の幅と路地の幅を見比べて、ここには入ってこれまい、と不良がいったん安心したら、そうやって無理矢理入ってくるという演出をしがちなところを、そんなタルいこと一切しないカーペンター演出は相変わらず潔いです。

 そんなクリスティーンの特殊能力を主人公も知って、それでもそれを受け入れ、映画としてどうなっていくのかと思いきや、恋人と友達がクリスティーンを退治するという、これは人と車の奇妙な三角関係の話ともとれます。あるいはここで悲恋物語みたいなノリにも持って行けるのですが、カーペンター監督はそっちにも興味がないらしく、この映画ではクリスティーンそのものの映像的なインパクトのみで勝負しています。この監督さんは一つの映画にいろいろなものを詰め込みすぎたら失敗するということがちゃんと分かっているので好きです。

 原作ファンの目でみるとあれがないこれがないと不満も出るのですが、それを言い出したら映画としてまとまらないことは明白です。カーペンターによるこの映画はキング作品では成功している方でしょう(と言っても興行的には失敗し、キングも不満だらけだったようです)。それほど残酷でもなく、イヤな気持ちになるような陰惨なシーンもなく、ショックシーンは主にワッと来て脅かすだけという、ある意味精神衛生にいい良質なホラーですので、私のお気に入りでもあったりします。あと主題歌が好きだったんですけど、後に「ターミネーター2」に使われて、そっちの方が有名になってしまったのが気の毒でした。

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