ケープ・フィアー

 ロバート・デ・ニーロとマーティン・スコセッシ監督という黄金コンビが挑んだサスペンス「ケープ・フィアー」について、今日は書いてみたいと思います。この映画は「恐怖の岬」のリメイク(原題は同じ)なのですが、私はオリジナルの方を観ておりません。観よう観ようとは思っていたのですが、何だかタイミングを逃してしまったのです。よって比較とかできませんのでご了承下さい。

 この映画は確かEXテレビという番組で今野雄二さんが紹介していたのを観て、面白そうだと思いました。サスペンスとして真っ当な映画で、ある意味スコセッシが本気でジャンル映画に手を出したということで話題になっていたと思います。あとハイビジョン合成を駆使しているあたりが話題にもなっていました。どの部分がそうかは私には分かりませんでしたが。

 劇場で観てみると、かなりヒッチコックにオマージュを捧げているであろう濃いサスペンスでありました。タイトルデザインがソウル・バスだし、音楽もたまたまオリジナル版もヒッチコック映画でお馴染みのバーナード・ハーマンで、それをアレンジしているので、余計そういう印象を受けます。

 話自体は単純なのですが、演技やカメラワークや演出があざとくて観ていてどっと疲れます。出所してきたデ・ニーロが自分を救えなかった弁護士を逆恨みして嫌がらせをしかけていくというのが物語の骨子です。あまりにデ・ニーロがキャラを作り込みすぎて、ちょっとユーモラスな域にまで踏み込んでいます。どう見てもおかしな人物であり、正統派サスペンスとしてはもうちょっと恐怖の対象は正常に見える部分があった方がいいと思うのですが、スコセッシ監督は、今回は凝った映像とくどい演技で押したいようで、終止強烈な演出にこだわっています。

 デ・ニーロの印象が強烈なので気付きにくいのですが、復讐される側のニック・ノルティ、ジェシカ・ラング夫妻の方も、清廉潔白とは言いにくい家庭です。と言うかなんかやけにリアルな感じがしました。ノルティは浮気してるし、娘のジュリエット・ルイスはそんな両親に嫌気がさしていて、デ・ニーロのような危険な匂いのする人物に惹かれる一面を見せます。ここのジュリエット・ルイスは小悪魔的な感じがよく出ていて素晴らしかったです。可愛いという感じではなく、末恐ろしい女優さんが出てきたなと思ったものでした。

 少しずつエスカレートするデ・ニーロの嫌がらせに、ノルティも対抗策を取ろうとするのですが、必ず一枚上を行かれてしまいます。デ・ニーロに近付くなと警告すればそれが録音され、裁判で不利な証拠に使われたり、ならず者を雇って痛めつけようと思ったら返り討ちにされたり、です。しまいには探偵を雇って、撃ち殺そうと画策するのですが、ここでも計画を読まれて探偵は逆に殺され、家族はパニック状態に陥ります。

 ついに車で脱出し、クルーザーを停めてある岬に行って過すことにします。だからタイトルが恐怖の岬なんですが、よく考えたらそこへ行く必然性ってあんまりないことに気付きました。まあいいですけど。そこまで行けばデ・ニーロも追ってはこまい、と思ったのでしょうが、すでにデ・ニーロは車の底に貼り付いていました。停まった車の下にカメラが下がり、へばりついているデ・ニーロを見せるのですが、何か人間でない生き物のような、本当のモンスターのように見えて不気味でした。この映画で一番恐ろしいカットかも知れません。と同時に、実はこの映画が怖かったのはここまでという気もします。

 あまりの緊張状態の持続に私のスタミナが切れたということもあるのですが、クライマックスへ向けてのお膳立てで、ちょっと中だるみしてしまっているような気がします。おまけにクライマックスでも、それまでと同じようなくどいカメラワークに終止していて、ここまで来ると演出過多が気になってしょうがありませんでした。それでも見るべき所はちゃんとあり、ジェシカ・ラングの演技や、ついにデ・ニーロが怒りを爆発させるところ、またラストの殴り合いではノルティもまたデ・ニーロと同様の凶暴性を見せて、いろいろ考えさせる映画となっています。

 そんなわけでクライマックスの一番盛り上がっているところはちょっと醒めた感じで観てしまった私ですが、それでも全体としては好きな映画で、よく出来ていると思います。この映画は何度も見返して、いろいろ異常なところに気付いてニヤリと笑うような映画ではないかと思います。私も何度もDVDで、デ・ニーロがカメラの真ん前まで歩いてくるところとか、花火をバックにポーズを決めているところとか、映画館でのバカ笑いとか、ニック・ノルティがどアップで歯を磨いているところなどで、なんでこんな変なカットを撮るのだろう、と思って楽しんでいます。

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