トラ・トラ・トラ!

 本日は第二次世界大戦を描いた戦争映画の傑作「トラ・トラ・トラ!」について書いてみようと思います。トラ・トラ・トラとは暗号で「我、奇襲に成功せり」という意味でして、それから分かる通り、この映画は日米開戦前の緊張から、真珠湾攻撃までの一連の流れを、史実に沿って真面目に描いた作品となっています。

 以前「ラスト・ラン/殺しの一匹狼」の項で書いた通り、私の家にはこれの8ミリソフトがありまして、フィルムを8ミリ映写機にかけて壁とかに投影して見ることが出来る物だったのですが(音はカセットテープに収録されていて、同時に流して見る)、さすがに小さい頃だったので、映画の内容のほとんどは理解できていませんでした。その後、テレビ放送や、あらためてビデオを借りたりして、なんとなくぼんやりした印象から、少しずつこの映画の凄さが分かっていったという流れで、長い年月に渡って観てきた映画という感じがします。

 そのせいか、世間的にはこの映画がそこまで傑作と認知されていないという事実に驚いたりしました。と言うかあまりちゃんと観られていないのではないかと思えるふしがあります。と言うのも、有名な話ですからご存知でしょうが、この映画はアメリカパートをリチャード・フライシャーが、日本パートを黒澤明が撮るという予定で企画が進められたものの、諸々のトラブルから、黒澤監督が降板してしまい、舛田利雄さんと深作欣二さんが日本パートの監督を務めました。そのせいで、この映画の評価が主に評論家筋からは不当に低くなっている気がします。内容についてうんぬんということでなく、黒澤版が観たかったなあという、そのただ一点のみで、完成したこの映画を残念な物とみなしているのではないでしょうか。私の被害妄想だったらすみません。

 と言うのもこの映画、シリアスな戦争ものとして、これ以上無い素晴らしい作品となっているからです。当然黒澤監督の作風とは違いますし、そもそもそんな比較なんかナンセンスです。あるいは完璧主義の黒澤監督であったなら、やはり完成できなかったのではないか、と思えるほどスケールがでかすぎるのかもしれません。日米双方の事情を丁寧に描きながら、特に作為的な演出を施さず、それでいて目が離せないくらい面白く、クライマックスの真珠湾攻撃のシーンは、本当に戦争をやっているのかと思えるほどの大迫力です。これ職人のフライシャーだからこそ撮れたんじゃないでしょうか。ところどころ甘いカットもあるんですが、「この辺は、まあこのくらいでいいだろう」という判断が出来ないと、こういう規模の映画は完成までこぎつけられないと思います。その代わり、気合いの入っているシーンはめちゃめちゃ気合いが入っています。その見極めが見事に的確で、うまく言えないのですが、「映画らしい映画」という感じがします。

 日米合作だから当然と言われるかもしれませんが、日本の描写、と言うか役者さんたちが本当に立派な演技をしていまして、日本映画を観ているような気になります。日本映画のいいところと、アメリカ映画のいいところがちゃんと融合しているのですね。ジェリー・ゴールドスミスの音楽も日本を多分に意識していて、ところどころ、いやそれはやりすぎだよと言いたいところもあるのですが、おおむねいい感じになっています。

 まあいろいろ講釈を垂れましたが、やはりこの映画はクライマックスの大破壊に喝采を送る映画でしょう。とにかく信じられない撮影です。CGとかありませんから、ほとんどが実機を飛ばして撮影しており、ごく稀にミニチュアによる特撮がある程度です。しかしチャチなところはほとんどありません。撮影中の本当の事故とかも使ってますから、リアルすぎるほどです。スタントマンの命がけの逃げっぷりとか、どこまで演技なのか分からないほどです。アクションシーンを盛り上げるために仰々しい音楽とかかかったりしないのがまたいいです。

 戦争映画というと敵をやっつけてめでたしめでたしの戦争アクションか、あるいは平和への祈りを込めた反戦映画か、今ではその二つしかないような感じになっていますが、このように忠実に史実を描いた重厚なドラマと、ドキュメンタリーかと思えるほどのリアルな戦場シーンを両立させた、ハードコアな戦争映画がかつてはたくさん作られていたということを忘れないようにしたいと思います。特にこの映画は実際に戦争をしていた日本とアメリカが、その30年後くらいに一緒に映画を作っていたということで、私などはその事実にちょっと感動してしまいます。

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