サブウェイ123 激突

 いつぞや感想を書きました「サブウェイ・パニック」のリメイク作品「サブウェイ123 激突」のご紹介をしたいと思います。監督はトニー・スコット、犯人役をジョン・トラボルタ、その犯人と交渉するはめになる地下鉄職員をデンゼル・ワシントンが演ずるという、これで期待するなという方が無理というようなメンツが揃っています。

 結論から言いますと、非常に真面目に作られた良品という感じです。あまりに真面目というかストレートに作られすぎていて、ちょっと物足りないところもあるんですが、リメイク映画としてはかなり上出来な部類と言えるのではないでしょうか。

 私はもともとリメイクというのは名作を選んでするものではなく、ちょっと惜しい作品とか、いい出来なのに地味で埋もれている作品とか、作り直す必然性があるものに限るべきだと考えているのですが、この映画に関してはリメイクの必要性はないだろう、と思っていたのです。だって充分今観ても面白いし、ちゃんと評価されているわけですから。ではそこをあえてリメイクするとしたらどうすべきかと言うと、オリジナルが作られた当時と現在とでは、当然年数が経って社会的にも文化的にもいろいろ変化があるわけで、そういった時代の違いを反映させてアップデートさせることくらいではないかと思うのです。簡単に言うと、古さを感じさせるところを今風にしてみたり、技術的に不可能だった撮影を現在のテクノロジーで可能にしたり、というようなことです。で、この「サブウェイ123 激突」は、余計なことをあまりせず、トニー・スコット監督が自らの持ち味を存分に発揮しながら、現代の映画としてアップデートすることに成功していると思います。

 おそらく一番の改変はデンゼルの立ち位置でしょう。オリジナルの方のウォルター・マッソーは鉄道警察の人でしたでしょうか。今回のデンゼルは単なる地下鉄の一職員で、犯人との交渉もやったことがないのです。本当に偶然トラボルタの通信に応えてしまっただけで、その運命的な出会いが物語の核ともなっていきます。トラボルタとデンゼルの価値観の対立というか、その対比でずっと引っ張るのかと思いきや、デンゼルの意外な秘密が明らかになってきたりして、なかなか面白い展開を見せます。この二人をキャスティングしたからには、やはりこのくらいの絡みは必要でしょうから、この改変は非常にいいと思います。

 もちろん警察の交渉人も出てきて、この人がまあジョン・タトゥーロなんですが、たいていこういう映画の警察とかって無能が多いんですけど、この人はそれなりに優秀でちょっと意外でした。普通はもっとデンゼルの足とか引っ張って、観客をヤキモキさせるもんなんでしょうけど、市長とかも意外と根はいい人で、そういうフラストレーションはありません。でも逆にこういうところが娯楽映画としてはちょっと淡白と言えるかもしれません。

 映画の作りというか、完成度はもう安定感がありすぎて、いつものトニー・スコット節を味わえます。特に身代金を運ぶのにパトカーや白バイが爆走するところはいつもながら派手で素晴らしいです。途中で事故って到着が遅れるというのもオリジナル通りなのですが、ここだけは桁違いに派手になってますので、ちょっと笑いそうになってしまいました。

 決して文句というわけではないんですけど、気になったのは二つくらいでしょうか。一つは身代金をデンゼルが運ぶことになって奥さんに電話するところが、なんだかちょっと取ってつけたような感じになってしまっていたことです。いや分かるんです。映画人としてあそこはああいう音楽をかけて、それなりに盛り上げないわけにはいかないことは分かるんです。でもそういう流れなら、例えばこの映画はオープニングからいきなりガチャガチャした映像の地下鉄の走りを見せて映画の中に一気に引き込もうという始まり方をするのですが、そうではなくデンゼルの平和な家庭の描写から始まって、日常から、事件に巻き込まれ、また日常へ帰るという構成にした方が、あの電話も活きるでしょうし、デンゼルの告白も効いてくるでしょうし、ラストも一件落着感がもっと出たのではないかなと思うんですが、私のこういう考え方はたぶん古いんでしょう。

 もう一つは市長が途中で気付いてトラボルタの正体を全て話してしまうんですが、あそこまで明かす必要はあったんだろうか、と思ってしまいました。何だか神秘性が全く無くなってしまってつまらないと思うんです。それに証券マンだったのがいくら刑務所に入ったからと言って、あんな凄腕の職業犯罪者みたいになるもんだろうか、という無用なツッコミもしたくなってしまいます。やってる犯罪の種類が全く違うだろ、と。

 まあそれでもブライアン・ヘルゲランドの脚本は、どちらかと言うとそういった理屈よりもドラマ性にウェイトを置いて、なんとかまとめていたので大したものだと思いました。贅沢かも知れませんがこのくらいの面白さの映画が年に10本くらい観られたら私は満足です。

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