ババドック 〜暗闇の魔物〜

 先日Amazonプライムで観ました「ババドック 〜暗闇の魔物〜」の感想です。こちらは全く知らなかったのですがツイッターで凄いという噂を聞いてすぐさまウォッチリストに入れました。そんなことばかり毎日しているのでもうウォッチリストがパンパンなんですけどそれはまた別の話。

 オーストラリアの低予算映画で、サンダンス映画祭で話題になったというのでインディーズ映画ということなのかもしれません。キャストやスタッフさんも知っている人はちょっといませんでした。しかしこれ凄い映画でした。シングルマザーが聞きわけのない息子に手を焼く様子と言いますか、子育てのストレスをそのままホラーとして描いていきます。お母さんの演技も息子の演技もリアルかつ凄まじいものがあります。特別残酷な表現があるわけでもないのに、かなり神経を逆撫でされます。

 だんだんとわかってくるのはかつてお父さんを事故で亡くしている、そしてその事故の原因もちょっとお母さんが関わっているということで、母にとっても息子にとってもそれがトラウマになっているのです。そして息子をなだめようと思ったのか、お母さんは本を読んで聞かせるのですが、その本に出てきたババドックという化け物、それを息子は信じ込んでしまったようでことあるごとにババドックだとか言い出すのです。クローゼットに怪物がいるのを信じちゃう子供というよくある構図なんですが、お母さんはそのストレスに耐えられず、本をビリビリに破いたら、またつなぎ合わせられた物が出てきたりと、息子がそういうことをやっているのか、それともババドックという魔物が実在しているのか、あるいはお母さんが妄想を見ているだけなのか、全くわからないまま映画は進んでいきます。そしてついに妄想なのかババドックの魔力なのかお父さんが姿を現すのでした……。そして「息子を差し出せ」と。

 かなりキツイ映画なのですが、そのキツさの一つは編集にあります。余韻も何もなくブツッとシーンをぶった切る編集で最初から生理的に受け付けない感じが漂います。私もこういうつなぎ方は嫌いなので、これは厳しいなあと思いながら見ていました。しかしそれこそが狙いなんだろうなというのはわかります。もう一つは外部の第三者の排除、と言いますか、この親子だけでは解決できないことなんですよ、この話って。だから医者なりカウンセラーなり、何かに頼ることができたらいいのにと思うんですが、そういった助けが全く周りから排除されています。第三者がいても更なるプレッシャーをお母さんに与えるくらいのことしかしません。こういった構図は「ヘレディタリー」にも通ずるものがあります。

 「ヘレディタリー」もそうなんですけど、家族というか家庭という地獄をホラー映画として描くというのは昔からあって「エクソシスト」では娘が思い通りに育たない問題を、「ローズマリーの赤ちゃん」ではマタニティブルー並びに母になることで発生する周りからの同調圧力を、「シャイニング」では父親の家庭内暴力を、それぞれホラー映画という形を借りて描いています。この「ババドック」ではシングルマザーが周りから全く理解を得られず一人で子育てをすることの地獄のようなストレスという問題をホラー映画として描いています。そういう意味では由緒正しいホラー映画といいますか、そういう問題に興味のない人にも「ああこういう恐ろしいことがあるんだな」と実感させる手段として、誰か頭のいい人が考えたんだなと思います。というか映画って大体そういうものなのかもしれません。

 本当にいろんなことを考える映画です。息子が魔物に取り憑かれたようにも、お母さんが魔物に取り憑かれたようにも、そうではなく魔物などいなくてこれと同じことが現実に行われ、そういう家庭では虐待とか子殺しとかいう事件が起きてしまうのだとも考えられます。最終的にハッキリとした結論があるわけではなく、いろんな受け止め方ができるような感じで終わるんですけど、私もやっぱり人の子ですから、子供の頃の聞きわけのない態度が母にこんなストレスを与えていたのかなあと自分の過去を振り返って反省したりもしました。立場によっては他のことを感じる人もいるでしょう。今まさに同じような境遇にいる人もいるかもしれません。とにかく世の中にはまだまだ凄い映画があるなあと思い知らされた一本でございました。


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