隠し砦の三悪人

 本日は「隠し砦の三悪人」のお話をしたいと思います。これリメイクもあるんですが、黒澤明監督のオリジナルの方です。リメイクの方は観ていませんので比較とかもできません。ご了承ください。もちろんリアルタイムで観たわけではなくて、東宝からちゃんとしたビデオが出た時か、衛星放送か何かで放送した時のどちらかで観たと思います。ちょっと忘れてしまいました。

 いきなり千秋実さんと藤原釜足さんの珍道中からこの映画は始まります。もう今回面倒なので役者さんの名前で書いてしまいますね。で、その二人が戦さの跡地でうろうろしていたら捕まって金山で働かされ、そこで暴動が起こって逃げ出して……、という災難続きの中で三船敏郎に出会い、その三船は謎の美女、上原美佐を連れていて、さらに山奥の湖に金を埋め込んだ薪を隠しているということが、ゆったりとしたペースで描かれて行きます。さらに現在のその国の状況、どこからどう行けば脱出できるのかを丁寧に説明していきます。ここら辺りタルいと感じるかも知れませんが、このセットアップがないと中盤以降面白味が出て来ないのでしょうがないところでしょう。ただチャンバラをやる映画ではないのです。

 実は上原美佐はお姫様で三船敏郎がその護衛の武士で、家を復興させるための軍資金を秘かに運んでいるというお話です。それを二人の人足の視点から描いているわけです。よく考えたらこの二人は物語に不要なキャラとも言えます。しかしこの凸凹コンビが狂言回しとなっているので、一種とぼけた雰囲気が映画全体に漂い、いい方向に働いているのでしょう。三船主役だけで進んでいたらけっこう窮屈な映画になっていたかも知れません。

 そんなわけで一種のロードムービーのようにこの映画は進んで行きます。多くの黒澤映画にありがちな完成度が高く、ガチガチな印象はあまりこの映画にはありません。風景も開放感があり、どちらかというと足の向くまま気の向くままというか、ルーズな作りといった感じがします。もっと尺を縮めることもできそうです。そのせいで評価が分かれたりするのですが、私はこのダラダラ感も結構好きだったりします。こういう旅の描写がたっぷりあるので、上原美佐扮する姫が、敵に捕まったときに祭りが楽しかったとか言うのも説得力があります。

 ダラダラしながらも見せ場は迫力があります。何と言っても馬上のチャンバラが有名です。三船たちの正体に気付いた偵察隊が本部に知らせようと馬を走らせるのを、三船が馬で追いかけるのです。馬を並走させながら槍と刀でチャンバラをするシーンをほとんど本人がやっています。凄い迫力です。そして敵を斬ったものの、勢いあまって敵陣にそのまま突っ込んでしまうというダイナミックな展開はなかなか考えつかないものです。このシーンにヒントを得た映画としては「風とライオン」が有名ですが、「スター・ウォーズ/ジェダイの復讐」でも馬をスピーダーバイクに変えて再現されているように思います。

 捕まった後も、三船と旧知の仲の敵の裏切りによって助かり、何とか無事逃げ延びてめでたしめでたしです。この時の敵の侍さんの「裏切り御免!」という台詞がまた潔くて最高です。最近になってこの役者さんが藤田進さんと知って驚きました。姿三四郎のあの人とはまさか思わなかったのです。役者さんというのは本当に凄いですね。

 そんなこんなで何とも爽やかな印象を残す映画です。完成度よりも情感に訴えるという点で、黒澤監督作品の中では異色な一本なんではないでしょうか。特に黒澤ファンでない人が入門編に観るというのもいいかもしれません。私もそうでしたけど、タイトルから想像したものと内容がまるで違って驚くんじゃないでしょうか、っていうかよく分からないタイトルですよね。何が隠し砦で、三人とは誰と誰と誰のことなのか……、どうでもいいことですが気になってしまいます。

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